昔アメリカでは禁酒法という法律が施行されたことがあり、酒を作ったり売ったりすることが禁止されていた時期がありました。

この禁酒法は、様々な作品のモチーフにされているため存在を知っているでしょうが、なぜこの法律が作られたのかについてはあまり知られていません。

どうして禁酒法は作られたのでしょうか? また狙ったような効果は禁酒法にあったのでしょうか?

現代でもネットでは、気軽に「酒を法律で禁止しろ」という人がいますが、実際お酒を禁止するとどうなるのか。

この記事ではアメリカでかつて行われた禁酒法がなぜ施行されたのか、どのようなことが起きたのかについて取り上げていきます。

なおこの研究は、常松洋(1987)『禁酒法とアメリカ社会』大阪産業大学産業研究所所報第10号p45-61に詳細が書かれています。

目次

  • ウイスキーの天下だったアメリカ、反社会的な場所となっていた酒場
  • なかなかうまくいかなった酒場の追放
  • 賛否の分かれている禁酒法

ウイスキーの天下だったアメリカ、反社会的な場所となっていた酒場

19世紀のアメリカではウイスキーが広く飲まれていた
19世紀のアメリカではウイスキーが広く飲まれていた / credit:unsplash

時は19世紀半ば、アメリカの片隅。ウイスキーの香りが風に乗り、遠くの丘の向こうにまで漂っています。

酒の歴史は社会の歴史であると言わんばかりに、この琥珀色の液体はアメリカの日常を支配していました

その理由は単なる酔いを求める以上に深いものです。

例えば、スピリッツ信仰と呼ばれる奇妙な思想――風邪や骨折から蛇の咬傷に至るまで、すべてを癒す万能薬としてのウイスキーへの崇拝があったのです。

加えて、経済的事情もまたウイスキーを推し進めました。

開拓が進んだことで広大な中西部で穀物の過剰生産に陥ってしまった農民たちは、その解決としてウイスキーを作り、売ることで生計を立てていたのです。

塩漬け豚肉より収益率が高く、輸送しやすく、腐る心配もない。