同時に全国民に関連する「医療費」の増大への対処を考えざるを得なくなる。さらに、「福祉その他」における介護費や家族手当それに生活保護などの伸びへの対応も大きな課題となる。

そして「地方創生」もまた、「部門別社会保障給付費」の動きの延長線上で、力点移動の可能性を帯びている。

コミュニティのDLR理論の提唱

私(金子)は「一事なれば、万事なる」という経験から、地方創生論のよりいっそうの広がりを求めて、この10年間はコミュニティのディレクション(D)とレベル(L)に社会資源(R)を加え、DLR理論としてのコミュニティ論の総合化をめざしてきた(金子、2016)。

図4は、コミュニティの方向性としてディレクション(D)と住民の力のレベル(L)を接合して、資源(R)としてのリーダーシップと社会資源を新しく加えた理論化の試みである。

図4 地方創生とコミュニティDLRの関連図出典:金子(2023:352)

社会的な価値がある目標を達成する手段となるものはすべて社会資源とみなすので、ここでは天然資源だけではなく、地理的資源、産業的資源、歴史的資源、人的資源なども文脈に応じて社会資源として使う。

コミュニティDLR理論は、日本地域社会研究の原点をなす柳田國男と宮本常一の研究を出発点として、歴史的には全国総合開発計画、一村一品運動、内発的発展論、地域活性化論、そして比較コミュニティ研究などの膨大な内外の実証的な地域研究文献との接合により生み出された。

事例紹介を越える試みを続ける

10年間の地方創生論では、〇▼地区では有機農産物に特化して、それが大都市消費者に好評であり、売り上げが増加したといった事例の紹介が目立ったことである。

その意義は承知しているが、事例紹介を越えて可能な限り汎用性を求めてみたい。そうしなければ、活用資源が異なると、新しい地区では全くのゼロからの出発をせざるを得ないからである。