そこで上川・王毅会談に戻れば、総裁選活動を中断してまで米国に出張った上川氏が、深圳事件の原因究明と再発防止策をギリギリと王毅氏に迫るべきところに、処理水放出絡みの合意が飛び込んできたお陰で、会談の多くの時間がこちらの問題に割かれ、深圳事件が薄まってしまった感が拭えない。冒頭の『環球時報』記事も8割方がこれで、深圳事件は2割ほどだ。
それも「即時全面解禁」とでもいうならまだしも、報道官が「合意に達したからといって中国が直ちに日本産水産物の輸入を再開する訳ではないと強調」する様な話である。なぜ岸田首相は20日にグロッシ氏に電話してまで、これを急いだのか。有終の美を飾ろうと、投げられた解禁という餌に焦って食い付いたのではないのか。
福島沖も東シナ海も海は繋がっている。中国漁船が福島沖で漁をしているのも周知のことだ。つまり、この禁輸は、中国側も振り上げた拳の降ろし所、あるいは中国国民を理解させるための説明、に苦慮する類の問題なのだ。折も折、深圳事件が発生したのだから、被害児童とご遺族に報いるためにも、処理水の話は事件の真相解明と再発防止がなった後で良い、となぜ言わない。
斯くて切り札は中国に握られ続け、水産業者には、この先解禁されたとしても、台湾産品の様にいつまた禁輸されるか判らない、という中途半端な状況を強いることになるのである。
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最後に日本人学校について述べる。筆者は、13年4月から1年間、輪番で高雄の日本人会長を仰せつかり、オブザーバー参加を含めて10数回、日本人会月例会の一環で開催される学校委員会(「委員会」)に参加した。というのも、海外に90数校ある日本人学校の多くは、地域の日本人会または日本商工(工商)会によって運営されているからだ。
深圳の事件では日本商工会会長がインタビューに応じた。サイトを見ると商工会の運営だ。台湾に3校ある日本人学校は、台北・台中・高雄それぞれの日本人会が「委員会」を通じ運営に当たっている。「委員会」メンバーは、日本人会の会長・事務局長、校長・副校長、PTA会長、交流協会(大使館に相当)職員など10名ほどが、ボランティアで役割をこなす。