最新技術で成分を特定
タナシ教授は、USFの研究者、イタリアのトリエステ大学とミラノ大学の研究者と協力し、化学分析とDNA分析を実施した。容器の内壁から採取したサンプルを用いて、複数の分析方法を駆使し、最後に何が入っていたかを明らかにしたのだ。
カクテルの成分として使用された植物の一つは、地中海沿岸原産のシリアンルーであることが判明した。この植物の種子は、アルカロイドのハルミンとハルマリンを大量に生成し、「夢のような幻覚」を引き起こす。また、少量ではあるが、アルカロイドのヴァシシンも含まれており、これは特定の用量で子宮収縮作用を持つ。これらは出産を助けたり、中絶を誘発したりする可能性があり、ベス神と関連付けられている概念を示唆している。
さらに、精神活性アルカロイドのアポルフィンを含む青いスイレンの花(Nymphaea caerulea)の痕跡も見つかった。分析では、発酵した果実ベースの液体や、蜂蜜、ローヤルゼリーなどの成分の存在も明らかになった。古代エジプトでのリコリス栽培を示唆するリコリス(Glycyrrhiza glabra)の化合物も見つかった。小麦やゴマの種子の痕跡に加え、パンやビール作りに使用されるサッカロミセス・セレビシエなどの発酵酵母、松の実などのピノレン酸源も発見された。
しかし、最も驚くべき発見は、「残留物中に人間のタンパク質が多く存在する」ことだった。これは、「儀式目的で調合された飲料に人体の液体が意図的に添加された」ことを示唆している。具体的には、母乳、粘液(口腔または膣)、血液などが含まれる。
この調合液を飲む理由の一つは、エジプト神話における重要な出来事である「太陽の目の神話」を再現するためだった可能性がある。この物語では、ベスは植物由来の薬物を混ぜたアルコール飲料を血に飢えた女神ハトホルに提供することで、彼女の怒りを鎮めたのだという。