が、同日の『環球時報』の見出しは「中国は日本の新内閣が送った前向きなシグナルを高く評価」であり、記事に「深圳事件」や「東シナ海での軍事」への言及はない。あるのは岩屋外相が「日中協力には様々な分野における大きな可能性があり、日本は中国と各レベルで意思疎通を強化し、協議を通じて懸案を解決し、両国民に更なる利益をもたらしたいと述べた」との記述だ。
加えて王氏が、「日本が台湾問題に関する政治的約束を守り、『一つの中国』原則を揺るぎなく堅持し、中国に対して客観的、合理的、積極的、友好的な認識を確立することを望む」と岩屋氏に述べたことにも触れている。彼は相当に舐められているのではないか。そして筆者は岩屋氏が、前述した日中共同宣言における日本の「一つの中国」についての文言をどのように理解しているかをぜひ知りたいと思う。
なぜかというに、最近読んだ中曽根康弘の『自省録』にこういう記述があるからだ。
中国は事あるごとに「一つの中国」を強調しているが、特に国辱を受けるようなことがあれば軍事力を使うかもしれないが、そういう情勢がない限り、基本的に台湾については現状維持でいく考えだと、私は見ています。そういう情勢認識を前提に、日本も中国との友好関係を構築していくことが賢明です。オリンピック、万博を控えて中国情勢は、2010年くらいまでの10年の予測はなかなか難しいでしょうが、精密な研究が必要です。
私は以前から台湾に対する戦略についての五原則を主張しています。第一は、日本やアメリカが中国との間で約束した条約、共同宣言は遵守する。これは、ある程度「一つの中国」を承認するということです。(以下省略)
中曽根氏は前記した日本の言う「一つの中国」を正しく理解した上で、これを「ある程度・・承認する」と述べる。つまり「台湾を見棄てる」訳である。
同書が書かれた04年とは、台湾は国民党から初めて政権を奪取した民進党陳水扁政権が2期目に入る頃であり、日本は鄧小平の韜光養晦に騙されて、「バスに乗り遅れるな」とばかり中国進出に血道を上げていた時期だ。中曽根氏も、20年後に中国が今日の様なモンスターに化けると知っていたら、こんな甘いことは書くまい。