BMWがカーボン・ニュートラル時代に掲げるビジョンと戦略

今回はBMWの日本法人である「ビー・エム・ダブリュー株式会社」の「長谷川 正敏 代表取締役社長」に様々な内容のインタビューにご協力いただき、BMWの今とこれからを中心にお話しを伺いたいと思います。

まずはBMWの「ブランドオリジナリティ」について長谷川社長に伺うと『BMWは飛行機のエンジンメーカーから始まり、創業以来「走る・曲がる・止まる」を徹底的に追求するという伝統を崩さずにポリシーを貫いてきたメーカーであり、例えば、ボディ剛性は(モノコックボディ)上側の作り込みによって変わりますが、Bピラーひとつをとっても設計思想として間隔を狭めるメーカーもあれば当社(BMW)のように間隔を大きくするメーカーもあり、そこが思想や味付けの違いですし、ユーザーが走行する際の環境も異なるので、結果的に要求される性能レベルも異なります。
わかりやすいところでは、日本の高速道路の最高制限速度は120km/hですが、ドイツのアウトバーンでは250km/hを出すことも可能です。
制限速度が異なれば動力性能のみならず制動距離も重要で、つまり、要求されるブレーキ性能も異なってくるので、言わばクルマが育った文化が違い味付けにも濃淡が出てきますので、BMWの車両が持つフルポテンシャルを日本では感じにくいのが実情です。
しかしながら、“その価値を見出してくださるお客さま”がいるからこそ、ビジネスが成り立っていると思うので、BMWはこれからも日本はもちろんのこと世界各国の市場に忠実に向き合っていきます。』と話されていました。

BMWが日本で推進する取り組みの最前線を追う! 長谷川正敏 代表取締役社長インタビュー【自動車業界の研究】
駆けぬける5シリーズ セダン(BMW)(画像=『CARSMEET WEB』より 引用)

続いて長谷川社長は『現在、自動車業界では競争が激化していて、特に中国メーカーの新規参入が各地域で進み、BMWも競争を避けては通れない情勢にあるので、そういった時代の移り変わりを商品やサービスに反映させていかないといけないと考えていて、(BMW AGの)オリバー・ツィプセ取締役会会長ともよく話しをしていますが、我々はカーボン・ニュートラル時代に向けて360度方位で攻めていくというモットーを持ち、各パワートレインの開発はやめないと当初から一貫して言ってきた数少ないメーカーのひとつですので、ガソリンやディーゼルのエンジン開発は今後も続けていく方針ですし、一方でプラグインハイブリッド車(PHEV=Plug-in Hybrid Electric Vehicle)やマイルドハイブリッド車、もちろんBEVも開発していて、さらには次世代を見据えて水素を使う燃料電池車(FCEV=Fuel Cell Electric Vehicle)にも力を入れており、およそ全てのパワートレインを持つメーカーですので、各国の需要に合わせてパワートレインを供給するために将来を見据えて投資を行い、未来に向けて開発した技術はグループ内(BMW、MINI、ロールス・ロイス)で展開することで収益化を図ります。
例えば、MINI(親しみやすいコンパクト&ゴーカート・フィーリング)やロールス・ロイス(ハイエンド・ラグジュアリー)も含めて共有できる部品は共有化したり、見た目(エクステリア)は異なっても同じプラットフォームを使ったりなどです。
もちろん、それぞれのブランドは特徴や味付けも全く異なるので、サスペンションの違いなど、異なる仕様を採用することでブランドに合った味付けを行っています。
また、合理化といった意味ではエンジン用とBEV用でプラットフォームを分けていましたが、これから導入予定の新型BMW X3を最後に今後はエンジン車もBEVも共通のプラットフォームに移行していきます。
贅沢な悩みなのかもしれませんが、このようにBMWのラインアップやパワートレインはとても多くて、今後はさらに種類が増えるとなると販売店の皆さんは相当勉強しないといけないので大変だと感じており、この点は課題として捉えています。』と話されていました。

今回のインタビューから、BMWグループのドイツ本社と日本法人では、想像していた以上に密に連携が図られており、世界のBMWとして統一されたビジョンを元に戦略を着実に進めていることを確認できました。

BMWが日本で推進する取り組みの最前線を追う! 長谷川正敏 代表取締役社長インタビュー【自動車業界の研究】
BMWのヘッドクォーター(BMW)(画像=『CARSMEET WEB』より 引用)
BMWが日本で推進する取り組みの最前線を追う! 長谷川正敏 代表取締役社長インタビュー【自動車業界の研究】
長谷川社長と7シリーズ(BMW)(画像=『CARSMEET WEB』より 引用)

やはり、長谷川社長が話されていたようにユーザーであるコアなお客さま(ファン)がBMWの「ブランドオリジナリティ」である「走る・曲がる・止まる」のポテンシャルをわかっているからこそブランドが確立されていて、さらにユーザー視点ではカーボン・ニュートラル時代に向けてパワートレインの選択肢が多いのはとても嬉しいですし、BMWと言えばエンジン! といったところで今後も新開発のエンジンが出て来ることにとても期待が持てます。

BMWが日本で推進する取り組みの最前線を追う! 長谷川正敏 代表取締役社長インタビュー【自動車業界の研究】
585PSを発生するM5の4.4L V型8気筒BMWツインパワー・ターボ・ガソリン・エンジン(BMW)(画像=『CARSMEET WEB』より 引用)

トヨタ自動車との水素社会実現に向けた協力関係の強化

BMWは日本のトヨタ自動車と水素社会の実現に向けて協業することを発表しており、今回、その目指すところを長谷川社長に伺うと『BMWとして様々なパワートレインで環境に優しい自動車を作っていく上では、水素を使う燃料電池車はこれまでも選択肢のひとつとして存在していたのと、トヨタさんとはこれまでにも共同開発等々で関係があったことも後押しして(トヨタの「スープラ」とBMWの「Z4」の共同開発等)、今後は本格的に水素社会の実現に向けて協力していきましょう! ということで協業関係の合意に至っています。
そして、実際に双方のモデルに乗ってみるとわかるように「スープラ」と「Z4」では味付けが全く違っていて、それと同様にブランドごとの味付けを尊重しあいながら水素社会を実現するという目標に向かう形を目指していますので、2028年に生産開始予定のBMW初となる燃料電池車の量産モデルにご期待ください!』と話されていました。

水素を使う燃料電池車の普及、さらには水素社会の実現に向けては他にもメルセデス・ベンツ、ホンダやGM、現代なども取り組んでいますが、根本的な課題として、それらが実現されるためには水素生成からの供給網や水素ステーションといったインフラ、各諸制度が整備されていく必要があるので、各国の政府や中央省庁、自治体といったところが企業と足並みをそろえて推進されていかなければならないと感じます。

BMWが日本で推進する取り組みの最前線を追う! 長谷川正敏 代表取締役社長インタビュー【自動車業界の研究】
BMWのツィプセ取締役会会長とトヨタの佐藤代表取締役社長(BMW)(画像=『CARSMEET WEB』より 引用)