ここで重要になるのは、博士課程の影響が他のライフイベントによるものではないかという仮定です。

博士課程の開始は、卒業や就職、転居といった他の大きな人生の転機と重なることが多いため、メンタルヘルスの変化が博士課程そのものの影響であるかどうかを確認する必要がありました。

このため、博士課程と同じ時期におけるライフイベントの影響を検討し、博士課程が直接的にメンタルヘルスに影響を与えていると結論付けられるかどうかをテストしました。

この結果、博士課程の開始が学生のメンタルヘルスケアの需要を高めることに対して、他のライフイベントによる影響は小さいことが確認されました。

深刻なライフイベントの影響

そこで、博士課程の影響を他の深刻なライフイベントと比較しました。

例えば、「親の死」という辛い出来事と博士課程開始後のメンタルヘルスへの影響を対比し、相対的リスクの評価を行いました。

データによると、親を失った場合、精神科治療薬の使用は一時的に28%ほど増加しますが、喪失から2年後には元のレベルに戻ります。

一方、博士課程によるメンタルヘルスへの影響はより持続的で、研究が進行する数年間にわたり続くことが確認されています。

このことからも、博士課程がもたらすメンタルへの負担は、他のライフイベントよりも長期的かつ深刻である可能性が浮かび上がりました。

なぜ博士課程の「知の探求」がメンタルに負荷を与えるのか?

博士課程を歩む学生たちにとって、知識の頂点を目指す旅路は、栄光と希望に満ちているように見えるかもしれません。

しかしその一方で、厳しい研究生活の中で心のバランスを崩してしまう人が多いのも現実です。

この研究が示すデータは、博士課程が学生たちのメンタルヘルスにどのような影響を与えているのかを、客観的に浮かび上がらせています。

博士課程に進学する前の学生たちは、修士号を持つ他の学生たちと同じ程度のメンタルヘルス状況を保っていました。