産まれる前に半分死ぬイモリの話です。
オランダのライデン大学(LU)で行われた研究により、卵の半分が孵化前に死亡するというイモリの奇妙な致死システムの謎が解明されました。
この奇妙な現象については200年以上前に発見されてから現在に至るまでに、致死システムの仕組みや死ぬことで得られるメリットなどさまざまな説が報告されてきましたが、どの研究も染色体や遺伝子の包括的な分析が行われておらず、決め手に欠けていました。
しかし新たに行われた研究では、詳細な遺伝子地図が作成され、イモリの致死システムが第1染色体に起きた1回の大規模な変異に起因していることが示されました。
また致死システムが簡易な進化促進装置、あるいは種分化装置として機能しており、わずか2世代という僅かな期間で新種を作り出す手段になること、さらに先祖となる集団からの遺伝子混入に対して、致死システムが保護機能を発揮し、新種の確立を助けていることなどが判明しました。
さらに研究では、進化メカニズム解明の決め手となったイモリの第1染色体の新事実も明らかにされています。
卵の半分が死ぬという事実からは、自然の摂理に反する理不尽さを感じずにはいられませんが、生命にとってはしばしば効率的な増殖能力よりも新種を確立することのほうが重要なのかもしれません。
今回は記事本文にて、イモリの謎にまつわる歴史的な経緯を紹介しつつ、研究内容の詳細な解説を行っていきます。
なお研究内容の詳細は2024年11月11日にプレプリントサーバーである『bioRxiv』にて公開されました。
目次
- 半分死ぬ仕組みは誤解されていた
- 致死システムを維持する「進化のシナリオ」
半分死ぬ仕組みは誤解されていた
多くのイモリでは親が産んだ半分の卵が自動的に死んでしまうという奇妙な致死システムが存在します。
そのためイモリは過酷な自然環境や捕食者から生き延びるだけではなく、種の存続のために必要とされる卵の2倍を産み続けなければなりません。