その後、両グループの精子サンプルを調べた結果、微小重力に晒された精子は地上にあった精子に比べて、運動機能が大きく低下していることが判明したのです。

特に精子が目標に向かってどれだけ速く移動できるかを示す曲線速度(curvilinear velocity )が微小重力グループでは大幅に落ちており、これは宇宙空間では精子が卵子に向かってうまく移動できなくなる可能性を示唆するものでした。

加えて、微小重力に晒された精子は地上にあった精子に比べて、生きた精子の数が有意に減少しており、生存率が低下することも判明しています。

研究者は「生きた精子の完全な喪失には至らなかったものの、微小重力環境は精子の活力や運動機能を著しく低下させる」と指摘。

その上で「微小重力への曝露期間が長ければ長いほど、その悪影響はさらに大きくなることが予想できた」と話しています。

この結果は、宇宙滞在中の妊娠がやはり地上に比べて困難になりやすいことを示すものです。

画像
宇宙では精子がぐだぐだになる? / Credit: canva

ただ精子は微小重力に晒されても、DNAが断片化したり、精子の形状が変わったり、酸化ストレスを受けることがなかったようです。

とはいえ、なぜ精子は微小重力下で運動機能などが低下してしまうのでしょうか?

精子は、進行方向を決定する際に化学的なシグナル(化学走性)や温度勾配(温度走性)に基づいていると考えられているため、人間のように上下が分からなくて混乱し運動機能が低下するという可能性は考えにくいものです。

そのため研究者が考えているのは、急激な重力変化や微小重力が細胞の内部環境や代謝に影響を与えている可能性です。

重力変化が細胞のエネルギー生成プロセスに影響を及ぼし、運動に必要な栄養の供給を低下させる可能性があります。また精子の運動にはカルシウムイオンやプロトンポンプの適切な動作が必要ですが、重力の変化がこれに干渉する可能性があります。