これから人類がますます宇宙に進出することを踏まえると、宇宙空間で女性が懐妊するケースも当然ながらあり得ます。

しかし地球とまったく異なる環境下でも、今まで通り正常に妊娠が成立するかどうかはわかりません。

妊娠が正しく成立するには、男性側の精子が女性側の卵子まで泳いでいって受精する必要があります。

ここで研究者たちは「精子の運動機能が微小重力によって悪影響を受けるのではないか」と考えました。

そこでカタルーニャ工科大学の研究チームは、生きた精子を微小重力に晒すという興味深い実験を行うことにしたのです。

宇宙に行くと精子はぐだぐだになる?

本研究の目的は、新鮮なヒト精子サンプルをパラボリックフライト(放物線飛行)に晒し、精子の運動機能や生存率への微小重力の影響を明らかにすることでした。

パラボリックフライト(放物線飛行)とは宇宙空間に行かずに微小重力環境を作り出す方法です。

具体的には、水平飛行している航空機の機首を上げ、約45度まで上がった状態でエンジンを停止し、その後、放物線を描くように機体を自由落下させることで、機内を一時的に微小重力状態にするのです。

パラボリックフライトは宇宙飛行士の訓練やハードウェア機器のテストなどに使われています。

今回の実験は2020年9月から11月にかけて実施され、15名の男性ボランティア(平均年齢34.8歳)から健康な精子サンプルを採取しました。

精子サンプルはWHO(世界保健機関)の基準に従って、男性ボランティアに2〜5日間の性的禁欲をしてもらった後、自慰行為によって採取され、滅菌容器に集められています。

そして精子サンプルの半数は地上に置いたままにし、もう半数を航空機に乗せてパラボリックフライトによる微小重力環境に晒しました。

両グループの精子サンプルはともに人の体内と同じ約37℃の温度下に置かれています。

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パラボリック・フライトによる微小重力実験の様子/ Credit: NASA – Parabolic Flight