即時に12000人から成る部隊を派遣し、同時にバレンシアとその近郊都市の自治体が住民に洪水警報を出しておれば、住民は車を安全な場所に移動させたり、家屋などに水の侵入を防ぐ工夫もできた。それをしなかったことから、少なくとも10万台の車がスクラップになっているという。また、家屋、商店、倉庫、地下駐車場、工場などで最高3〜4メートルまで水が浸入した。死者については上述した通りだ。

85万人が被災者となった

ところが、早朝の洪水警報が出されてからもサンチェス首相は何もしなかった。唯一彼が行ったのは、バレンシア州政府に対し「支援が必要であれば、中央政府に依頼すればよい」と伝えだけであった。これはあたかも、海で溺れそうな人に対して「救命が必要であれば、要求してくれ」と言っているようなものだ。

そもそも一国の首相が陣頭指揮も執らず、このような発言をするということ自体、彼には国家リーダーとして資格はない。

サンチェス氏の脳裏にはバレンシア州政府は野党第1党の政権だということで、一定の距離を置いて見ていたようだ。州政府がサンチェス氏と同じ政党であれば、恐らく彼が陣頭指揮を執ったであろう。彼は国家リーダーとして料簡の狭い人間であるというのは以前から良く知られていることだ。

バレンシア県には266の自治体があり、今回75の自治体が被災して、およそ85万人がその影響を受けたのだ。だから、仮に緊急体制下にある12000人の軍隊を送ったとしても、各自治体で活動できる軍人の数はそれほど多くない。それでも軍隊は被災地で色々な活動ができる。

ところが、サンチェス首相は最初に僅か1200人の軍隊を送り、それでは足らないとして500人を追加。そのあと5000人を追加し、それに加え警察と治安警察も同等の人数を派遣したということで小出しの対応しかやっていない。すでに2週間が経過した今も自治体によっては彼ら軍隊の存在が不足しているというのだ。