キーウ側がシュタインマイヤー大統領の訪問を歓迎しなかった理由は大統領の外相時代の親ロシア政策にあるといわれる。その辺の事情は「ゼレンスキー氏のアンビバレンツ」(2022年4月15日参考)の中で書いた。シュタインマイヤー氏は2005年~09年、2013年~17年の2回、メルケル政権で外相を務めた。その外交手腕には定評があったが、ロシアに対してはメルケル政権下(「キリスト教民主・社会同盟=CDU/CSUと社会民主党との連立政権)では親ロシア政策が支配的だった。例えば、シュレーダー政権が開始したドイツとロシア間の天然ガスの輸送パイプライン建設「ノルドストリーム2」計画をメルケル政権は継続し、シュタインマイヤー氏は外相として推進させた。

駐独ウクライナ大使館のアンドリーイ・メルニック大使はウクライナ戦争の勃発後、ドイツのメディアに頻繁に登場し、ロシアを厳しく批判する一方、武器供給を渋るショルツ首相をプッシュしてきた。シュタインマイヤー大統領のキーウ訪問に最初に苦情を言ったのは同大使だ。同大使は日刊紙ターゲスシュピーゲルでのインタビューでは、「シュタインマイヤー大統領はウクライナがどのようになってもいいのだ。一方、ロシアとの関係は土台であり、神聖なものとさえ考えている」と辛らつに語っている。

ちょっと蛇足だが、日本国民はドイツ国民の反応をどの国以上に理解できるのではないか。ウクライナ政府は4月25日、支援国に感謝する動画を放映した。その中で米国やカナダ、スペイン、イタリアなど31カ国の国名が表示されたが、日本の名前はなかった。日本外務省も国会議員、そして国民も驚いた。記憶力のいい国民ならば湾岸戦争(1990年8月~91年2月)後のクウェート政府の感謝広告の件を思い出しただろう。クウェート政府が作成した感謝広告の中に日本の名前が支援国リストに入っていなかったのだ。