■触手とのファーストコンタクト

 オクトパスに関わるカソラーロの一連の取材は、彼の死の一年半前から始まっていた。米国家安全保障局の出身者でコンピュータソフトウェア業界の大物である、ウィリアム・ハミルトンという人物に探りを入れたのが発端である。

 ハミルトンは米司法省のための非常に洗練されたプログラムの考案者である。

 プログラムは同省の要求するとおり、犯罪者の追跡と発見に役立つものではあったが、ハミルトンは受注費の水増しの容疑で訴訟を起こされ、敗訴を余儀なくされた。さりながら、それはプログラムの開発終了を意味することはなく、情報組織の怪しげな面々の手に渡って開発・改良は続行されていた。

 プログラムの名は――PROMIS。

 独自に改良を施されたそれは、ハミルトンが手がけた初期のバージョンに対し、ある決定的な違いを有していた。

 新しいバージョンには、イスラエルとイランを含む全地域において、このプログラムを利用したほぼすべての人物を米政府が監視することを可能とする、バックドアが設けられていたのである。カソラーロはこうした操作の裏に、奇怪なタコの触手がうごめく気配を感じ取ったのだった。