サラリーマンの納税は一般的に勤務先の年末調整で完了するため、節税意識がそれほど高くない人も多いのではないだろうか。しかしサラリーマンも様々な制度を活用すれば節税できることもある。確定申告が必要になる場合もあるが、節税できるものは活用したい。
目次
1,サラリーマンの節税は所得控除が基本
サラリーマンが節税するには、所得控除の制度を利用するのが基本だ。所得控除によってどのように節税できるのか確認しておこう。
サラリーマンの税金の決まり方
サラリーマンの主な税金は所得税と住民税であり、所得控除を利用することで節税につながる。それぞれの税金は税率が決まっており、住民税率がほぼ一律なのに対し所得税は所得が多くなるに従い税率も高くなる。所得とは給与所得とも言われ、収入から仕事に必要な経費を引いた金額だが、サラリーマンの必要経費にあたる金額は給与所得控除額として決まっている。
年収 | 給与所得控除額 |
162万5,000円以下 | 55万円 |
162万5,000円超180万円以下 | 年収×40%−10万円 |
180万円超360万円以下 | 年収×30%+8万円 |
360万円超660万円以下 | 年収×20%+44万円 |
660万円超850万円以下 | 年収×10%+110万円 |
850万円超 | 195万円 |
ちなみに所得は源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」にも記載されている。この所得からさらに各種控除を引いた課税所得に税率をかけて税金が決まる仕組みだ。
サラリーマンは控除が多いほど節税になる
サラリーマンが節税するには、所得から差し引く各種所得控除を活用するのが基本だ。所得控除額が多ければ多いほど税金面では有利になる。しかし所得控除のために支出が多くなり手元に残るお金が少なくなりすぎるといった本末転倒な事態は避けよう。また住宅ローン控除のように、所得からではなく最終的に支払うべき税金から直接差し引ける税額控除もある。
サラリーマンの節税は確定申告が必要なこともある
サラリーマンの税金は勤務先が代わりに納税してくれるため、自分で行う作業は年末調整くらいだが、節税のためには確定申告が必要になることもある。確定申告は1月1日から12月31日までの1年間の所得と税金を計算し、所在地の税務署に提出する作業だ。これによって納めるべき税金に足りない金額を納税したり、納めすぎた税金が還付されたりする。
確定申告を普段しない人は面倒に感じるかもしれないが、一度やってしまえばそれほど難しい作業ではない。国税庁のサイトから案内に従って必要欄を記入していけば、たいていの場合は簡単に書類が作成できるようにもなっている。スマホからでも作業は可能で、マイナンバーカードか事前に作成したID・パスワードがあれば、e-Taxでそのまま送信も可能だ。
年末調整のみで済むケースもあるが、これから紹介する節税方法には確定申告が必要なものもある。
2,サラリーマンができる10個のおすすめ節税方法
サラリーマンができる節税を以下に10個挙げる。
(1)ふるさと納税(寄付金控除)
(2)住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)
(3)生命保険料控除
(4)地震保険料控除
(5)医療費控除
(6)セルフメディケーション税制
(7)雑損控除・災害減免法による所得税の軽減免除
(8)iDeCo(イデコ)・企業型確定拠出年金
(9)NISA
(10)特定支出控除
節税効果のあるそれぞれの内容について詳しく見ていこう。
節税1,ふるさと納税(寄付金控除)
ふるさと納税は、応援したい自治体に寄付をする制度だ。ふるさと納税を行うことで寄附金額の一部が所得税や住民税から控除される仕組みになっている。そのため節税方法として紹介されることもあるが、ふるさと納税は本来、居住地の自治体に支払うはずの税金を別の自治体に先払いする制度であり、厳密には節税ではない。しかし返礼品を受け取れるメリットもあり、お得な制度には違いない。
ふるさと納税の控除上限額は収入によって異なり、例えば夫婦で世帯収入1,000万円の場合は単純計算で17万2,000円が上限だ(さとふるの「簡単シミュレーション」より)。上限金額以内であれば自己負担額2,000円で返礼品を受け取れる。ちなみに応援目的などで現在の居住地の自治体にふるさと納税も可能だが、返礼品は受け取れない仕組みになっており、その場合は通常納税するほうがよい。
ふるさと納税による控除は原則確定申告が必要だが、確定申告が不要になるワンストップ特例制度も用意されている。ワンストップ特例制度を使える人は、ふるさと納税先が5団体以内で確定申告の必要のない給与所得者が対象だ。医療費控除を受けるなど確定申告をする必要のある場合、ワンストップ特例制度は利用できないため、確定申告で寄付金控除を受けよう。
節税2,住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)
住宅ローン控除は、ローンで住宅を購入またはリフォームした場合に利用できる。所得税から年末ローン残高の1%にあたる金額を原則10年間控除でき、所得税から控除しきれなかった分は住民税からも差し引ける。特例を除けば住宅ローン控除の上限金額は原則40万円であり、住民税からの控除額は最大13万6,500円だ。
住宅ローン控除は所得からの控除ではなく、最終的な所得税から直接引かれる税額控除であるため節税効果は大きい。しかし控除できる金額は、自分の支払っている所得税と住民税以上には控除できない。仮に納税額が30万円で住宅ローン控除の金額が40万円であれば、控除金額の余りが発生してしまう。そのため人によっては住宅ローン控除をフル活用できない可能性がある点は注意しよう。
住宅ローン控除を受けるには、金融機関から送られてくるローン残高証明書と税務署から送られてくる住宅借入金等控除証明書を年末調整の時に会社へ提出する。手続き自体は難しいものではなく、手元の書類を見ながら必要欄などを記入できるようになっている。ただし住宅を購入した初年度のみ確定申告が必要なため、必ず申告するようにしよう。
節税3,生命保険料控除
生命保険料控除は死亡保険や医療保険、個人年金保険などに加入している場合、一定の金額を所得から控除できる制度だ。控除内容は契約保険の種類によって異なり、生命保険料控除、介護医療保険料控除、個人年金保険料控除の3種類に分類される。さらに契約時期により控除金額の上限も決まっているが、3種類の控除をすべて適用すると最高12万円が上限だ。
新契約(2012年以降) | 旧契約(2011年以前) | |||
所得税 | 住民税 | 所得税 | 住民税 | |
生命保険料控除 | 最高4万円 | 最高2万8,000円 | 最高5万円 | 最高3万5,000円 |
介護医療保険料控除 | 最高4万円 | 最高2万8,000円 | なし | なし |
個人年金保険料 | 最高4万円 | 最高2万8,000円 | 最高5万円 | 最高3万5,000円 |
合計控除上限金額 | 12万円 | 7万円 | 10万円 | 7万円 |
生命保険や医療保険にすでに加入している人は多いだろうが、老後保障が心配な場合は個人年金保険という選択肢もある。個人年金保険は老後に向けた貯蓄に特化しており、生命保険や医療保険とは別枠で所得控除の対象になるため検討してみよう。
生命保険料控除は会社の年末調整で申告できるが、10月末頃〜11月頃にかけて保険会社から届く生命保険料控除証明書が必要だ。紛失すれば再発行はできるものの、手間や時間がかかるため届いた証明書は年末調整の時まで保管しておこう。
節税4,地震保険料控除
地震保険料控除は、居住用家屋や家財を保険対象にした地震保険料に対する控除制度だ。控除金額は所得税が最高5万円、住民税は最高2万5,000円だが、一定の条件に該当する契約は長期損害保険料控除として扱われる。その場合、控除金額は所得税で1万5,000円、住民税で1万円だ。両方の保険契約がある場合でも地震保険料控除の上限金額は5万円である。
所得税 | 住民税 | |
地震保険料控除 | 最高5万円 | 最高2万5,000円 |
長期損害保険料控除 | 最高1万5,000円 | 最高1万円 |
合計控除上限金額 | 5万円 |
地震保険料控除の申請方法は、生命保険料控除と同様に年末調整で申告できる。控除証明書は保険会社から別途郵送されることもあるが、保険証券と一体になっていることもある。また給与天引きで保険料を納付している場合は個人への証明書発行をしていないケースもある。発行方法は保険会社により異なるが、いずれにしても年末調整で使用するものであり手元に届いたら大切に保管しておこう。
節税5,医療費控除
医療費控除は自分自身もしくは同じ生計の配偶者やその他の親族などが支払った医療費が一定金額を超えると、その一部を所得控除できる制度だ。控除金額は支払った医療費のうち年間10万円を超える部分だが、受け取った保険金などがあればそれを差し引いて計算しなければならない。総所得金額が200万円未満の人は、総所得金額の5%が対象になる。
<医療費控除の対象となる金額(最高200万円)>
(1)支払った医療費の合計金額 − 保険金などで補填される金額 − 10万円
(2)その年の総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%の金額
医療費とは治療に必要な費用であり、治療が目的であればはり師や柔道整復師などの施術費、補聴器や眼鏡などの購入費、通院のための交通費(公共交通機関)なども対象だ。ただしビタミン剤のように病気の予防や健康増進のための医薬品、自家用車で通院した場合のガソリン代や駐車場代など控除に含まれないものもある。医療費控除は年末調整では申請できず確定申告が必要な点は注意しよう。
対象になる費用の例 | 対象にならない費用の例 |
診療費 薬剤費 保健師による療養上の世話の対価 入院時の部屋代や食事代 通院時の電車代やバス代 |
サプリメント 体調を整える目的のあん摩マッサージ代 親族への付添料 入院時の身の回り品や自己都合の差額ベッド代 通院時の不必要なタクシー代 |
節税6,セルフメディケーション税制
セルフメディケーション税制はドラッグストアなどでスイッチOTC医薬品(医療用から転用された医薬品)を購入した場合に、その購入費用を所得控除できる制度だ。世帯合計で年間1万2,000円以上を購入していれば、それを超える金額が所得から控除できる(上限8万8,000円)。対象商品には「セルフメディケーション税控除対象」の表示があるため、購入時に確認してみよう。
注意点として、セルフメディケーション税制を申請するには特定健康検査、予防接種、定期健康診断、健康診査、がん検診を受けていることが要件となる。これは国民の自発的な健康管理や疾病予防の取り組みを促進することが目的だからだ。またセルフメディケーション税制を利用する場合、医療費控除は使えなくなる点にも注意したい。
節税7,雑損控除・災害減免法による所得税の軽減免除
災害や盗難などにあった時は、雑損控除と災害減免法による所得税の軽減免除のどちらかを確定申告で利用できる。雑損控除は災害や盗難などで損害を受けた場合に一定額を所得控除できる制度だ。災害減免法は災害による住宅や家財の損害金額が時価の2分の1以上ある時に、所得税を直接軽減・免除できる。雑損控除と災害減免法の適用はどちらかしか選択できないため、有利なほうを選びたい。
・雑損控除
雑損控除の対象になる資産は生活に通常必要な資産であり、別荘や30万円超の貴金属などは当てはまらない。損害には自然現象や火災の他、横領による損害も含まれる。雑損控除の金額は保険金などで補填された金額を引き、実質の損失額のうち以下のいずれか多いほうが控除金額だ。損失額が大きくて控除しきれなかった場合は、翌年以後3年間を限度に繰り越して引き続き控除できる。
<雑損控除の金額>
(1)(損失額 − 総所得金額等)×10%
(2)損失額のうち災害関連支出の金額 − 5万円
・災害減免法による所得税の軽減免除
雑損控除を受けない場合は、災害減免法による所得税の軽減免除を申請できる。しかし災害減免法の適用を受けるには、災害にあった年の所得が1,000万円以下という要件がある。軽減または免除される所得税の額は以下の通り所得金額によって異なり、雑損控除のように翌年以降に繰り越して控除できない点には気をつけよう。
所得金額の合計額 | 軽減・免除される所得税の額 |
500万円以下 | 所得税の額の全額 |
500万円超750万円以下 | 所得税の額の2分の1 |
750万円超1,000万円以下 | 所得税の額の4分の1 |
節税8,iDeCo(イデコ)・企業型確定拠出年金
iDeCo(個人型確定拠出年金)と企業型確定拠出年金は、制度概要としては似たものだ。どちらも老後に向けた資産形成を目的とする積立制度で、iDeCoは私的に加入する年金制度、企業型確定拠出年金は勤め先が導入していれば利用可能な企業年金制度である。掛金を納付している場合はその全額が所得控除の対象になるため、上限のある生命保険料控除などと比べて節税効果は高い。
iDeCoも企業型確定拠出年金も積み立てる商品を自分で選び、預金といった安全商品の他に運用してお金を増やしていく投資信託もある。自分で運用した場合、運用益に20.315%の税金が発生するが、iDeCoや企業型確定拠出年金を利用した運用益は非課税だ。仮に将来200万円の運用益が出れば、自分で運用した場合と比べておよそ40万円も節税できる。
所得控除を受けるにはiDeCoの場合は年末調整、企業型確定拠出年金で掛金が給与天引きされている場合は特に手続きをしなくても控除を受けられる。年末調整には「小規模企業共済等掛金払込証明書」が必要になるため、手元に届いたら保管しておこう。注意点として、両方の制度に同時に加入できるが、企業型確定拠出年金に加入している場合はiDeCoに加入できない場合もあり会社に確認が必要だ。
節税9,NISA
NISA(少額投資非課税制度)は投資で得た利益が非課税になる制度だ。この点はiDeCoや企業型確定拠出年金と同じだが、利用にあたって会社に確認を取る必要などがなく使い勝手がよい。所得控除はできないが、利益に課税されないため自分で運用した場合と比べて節税になる。NISAには一般NISAとつみたてNISAがあり、どちらか片方しか利用できない。
一般NISAは株式や投資信託、ETF(上場投資信託)など幅広い商品が対象であり、譲渡益だけでなく配当金や分配金も非課税になる。非課税投資枠は年間120万円までで、非課税期間は原則5年間だ。NISAで投資できるものであれば商品に制限はなく売買も自由であるため、積極的に投資したい人に比較的適している。
つみたてNISAは非課税対象が投資信託とETFに限られているが、ETFで運用できる金融機関はほとんどなく、実質的には投資信託のみだ。一般NISAと同じく譲渡益や分配金が非課税になり、非課税投資枠は年間40万円である。投資方法は積立のみのため、原則として毎月約3万3,000円が上限になる。一回の投資金額は少ないが、非課税期間は20年間と長く、長期でゆっくり資産を増やしていくための制度だ。
節税10,特定支出控除
特定支出控除は、サラリーマンが仕事に必要な経費を一定の金額を超えて支出した場合に、その金額を所得控除できる制度だ。一定の金額とはその年の給与所得控除額×2分の1であり、それを超えた分が経費として控除できる。例えば年収1,000万円の場合、給与所得控除額は195万円のため、97万5,000円を超えた分の支出が特定支出控除の対象になる。
対象の経費には会社から支給された分を除き、転居費や研修費、資格取得費、単身赴任中の帰宅旅費、図書費などがある。経費として認められるには、それらについて「給与所得者の特定支出に関する証明書」を勤務先に記入してもらわなければならない。そのうえで「給与所得者の特定支出に関する明細書」を作成し、領収書などと一緒に確定申告する必要がある。
3,サラリーマンの副業は確定申告で節税額が増える
サラリーマンは所得控除を活用することで節税が可能だが、個人事業主やフリーランスで副業を行っている場合はさらに節税できる幅が広がる。
サラリーマンが副業で使用した経費を売上から控除する
サラリーマンが副業を行う場合、その所得が20万円を超えれば確定申告が必要になる。所得とは収入から必要経費を引いた金額であるため、副業で使った経費があれば控除可能だ。
副業の収入から控除できるのはあくまでも副業に関係する経費に限られるが、自宅で副業をする場合やプライベートのものを副業でも使用する場合などは一部を経費として計上できる。例えば自宅の一部を副業で使用しているならその区分の家賃、ネットを使用するなら通信費の一部などだ。これを「家事按分」と呼び、明確に分離できないものでも使用割合や使用時間から経費計上できて節税になる。
サラリーマンでも青色申告で大きな控除を受けられる
サラリーマンが個人事業主の開業届を出して副業をする場合、「青色申告」という申告方法を選択すると最大65万円の青色申告特別控除により節税になる。青色申告の帳簿は正規の簿記の記帳方法が求められるが、知識がなくても会計ソフトを使えば作成は簡単だ。青色申告の適用を受けるには、その年の3月15日までか開業後2ヵ月以内に所轄税務署に「青色申告承認申請書」を提出しなければならない。
青色申告特別控除は大きな控除であるため、副業収入がある場合はぜひ活用したい。しかし紙の書類で確定申告すると控除額が55万円に下がってしまう点は気をつけよう。e-Taxによる電子申告なら65万円の控除が可能だ。
4,サラリーマンが節税する時の注意点
サラリーマンでも所得控除などの制度を使えば節税できるが、納税作業の期限を守ることはもちろん、実際に発生した費用に基づいて申告しよう。不適切に費用を計上したり、うっかり間違えて確定申告したりした場合でもペナルティを課せられることがある。間違えた時は後から修正することも可能だが、手間もかかるため当初から適切に申告するのに越したことはない。
5,サラリーマンの節税のために支出を増やしすぎないようにしよう
サラリーマンも節税をすれば税金を軽減できるが、節税したいからといって必要以上に支出を増やさないようにしよう。例えば生命保険に余計に加入したり、iDeCoに無理な金額を積み立てたりすれば貯蓄ができなくなって家計が不安定になることもある。節税につながる制度を利用するのはよいことだが、節税が本来の目的ではないはずなので、自分に必要なものを活用しよう。
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