だがハリス氏はその後の選挙戦では重要政策の変転を批判された。不法入国者の扱いや、石油・天然ガス採掘のフラッキング(水圧粉砕)への態度という政策面でつい数年前に表明していたリベラル左派の過激な主張を今回は逆転させ、フリップフロップ(くるくる変える)と非難されたのだ。
その一方、ハリス陣営はトランプ氏に対して「アメリカの敵」、「民主主義への脅威」、「ヒトラー礼賛者」などという激しいののしりの言葉を浴びせ続けた。だが結果としてこの手法でのトランプ支持層の切り崩しには成功しなかった。ハリス氏は結局はキャンペーン当初での人気に裏づけがなかったことを立証してしまったといえる。
第4は、日本側での「トランプ叩き」の的外れである。日本側の主要メディアやアメリカ政治専門家とされる人たちの多くが「トランプは危険」、「トランプは敗者」という断定を述べ続けた。だがアメリカ国民の多数派はそれとは正反対の審判を下したのだった。
この展開から明らかになったのは日本側でのアメリカ政治の読み方の錯誤だといえる。その錯誤は国際情勢全般の間違った認識にもつながっている。そもそも他国の選挙での多数派の志向を根拠も乏しいまま、「危険」だとか「誤り」だと断じる「日本的識者」はこの際、現実を直視して、反省すべきだろう。もっともその種の反省には縁がないのが日本的識者の特徴かもしれない。
この錯誤には「もしトランプ政権の再登場ならば、トランプ氏は日米同盟も破棄しかねない」などという極端な断言もあった。次期政権に備えるトランプ陣営が日米同盟の堅持をどれだけ重視しているか、は少し調査をすればすぐにわかるはずだ。
トランプ氏自身は今後の政策については「アメリカ第一政策研究所」(AFPI)というシンクタンクに全面的に依存してきた。みずからの考えを正確に反映する内外諸政策の形成はこの研究所にゆだねてきたのだ。
その研究所の政策発表をみれば、トランプ大統領が日米同盟を破棄するなど、夢想もできないことが瞬時に理解できる。そんな簡単な作業もしない「日本的識者」の言辞は偏狭かつ不正確なことが今回の大統領選の結果、印象づけられたといえよう。