仮にこの考え方がEU全体のスタンダードとなれば、まずは移籍金の減額により、移籍金の設定が1億ユーロ(約166億円)を超えることも珍しくなくなった欧州のサッカー界において“価格破壊”が起き、超一流選手の流動化または契約期間の長期化が予想される。また「選手を育てて売る」ことで経営を成り立たたせているクラブにとっては死活問題となる。

FIFAはこの判決を受けて、移籍ルールの見直しを検討し、各国リーグやクラブ、選手会などといった関係者との折衝を始めるという。

近年、日本人選手の欧州移籍の低年齢化が進み、10代で海を渡る選手も多い。しかし、移籍ルールの見直しが図られている中、”移籍金ビジネス”が成り立たなくなれば、欧州クラブにとって無名ではあるが将来有望な日本人選手を“転売目的”で獲得するメリットが薄くなることも予想されるのだ。

MLB 写真:Getty Images

選手獲得が「人身売買」にあたるという考え

EU法に限らず米国でも、法律上では選手は「商品」ではなく「クラブの資産」とみなされている。

日本の野球選手がMLB(メジャーリーグベースボール)に移籍する際に用いられる「ポスティングシステム」も、2017年に改定された。それにより日本球団に入る譲渡金の割合が増えたことで、同システムでのMLB挑戦を認める球団が増え、今や多くの日本人プレーヤーが米国の土を踏んでいる。

しかし、MLB選手会を中心に、米球界では未だ“ポスティング不要論”が根強いのが現状だ。その根底には、選手獲得のために大金を費やすことは「人身売買」にあたるという考えがある。

それは欧州サッカー界でも同じで、青天井に吊り上がっていく一部選手の移籍金に対しても、法的に見て同様の見解がなされている。


ジャン=マルク・ボスマン氏 写真:Getty Images

「ボスマン判決」の反作用と比較