すると驚いたことに、電池と機械が量子的に結びついている場合、電池が失うエネルギーを超えて機械にエネルギーを供給できる可能性が示されました。

研究者の1人であるカレン・ホヴァニシアン氏はこの結果を受けて「電池と機械がお互い量子的な相関関係にある場合、機械は電池が与える以上の電力を得ることができる」と述べています。

しかしそうは言っても、古典的世界に長年身を置いている私たちにとってはなかなか納得できるものではありません。

そこで次は実験過程を追いつつ、理解を深めていきたいと思います。

量子電池が「お得」な理由

調査にあたってはまず、量子電池と機械の間に量子的な相関関係を持つ量子ビットが設置されました。

簡単に言えば、量子もつれを形成する粒子の一方が量子電池に、もう一方が電池をはめる機械に設置されているわけです。

通常の電池の場合、この状態でスイッチを入れれば電池からエネルギーが機械に流れます。

イメージ的には、電池からエネルギーが飛び出て、機械に入っていく感じでしょう。

しかし今回の研究では少し違います。

量子的なエネルギーを蓄積した装置から機械が得られる有効な仕事量のことは『エルゴトロピー』と呼ばれており、通常の電池が放出するエネルギーとは違う意味を持っています。

特に今回の研究では、エネルギーとはシステム全体が持つ熱や電荷や位置を含めた総エネルギー量を指し、エルゴトロピーとはその中で仕事として取り出せる部分と定義されました。

「システム全体のうちの取り出せる仕事量」という点では通常の電池を使う場合も含みますが、量子力学や量子熱力学では量子もつれが存在するため、単純なエネルギーではなく、取り出せる仕事量に特化したエルゴトロピーという概念があると便利なのです。

また取り出せるエネルギー、すなわちエルゴトロピーを増加させる極度の効率化が達成できれば、結果的に限界を超えて(エネルギー保存則に反しないレベルで)仕事量を移動させることも可能になります。