たとえばカエルの胚を破壊し(この時点では細胞は生きているものの、元の生物は死んでいると言えます)皮膚細胞を分離して培養する研究では、皮膚細胞たちは時間が経過すると培養液という新たな環境に適応し「ゼノボット」と呼ばれる多細胞生物に自発的に変化することが判明しました。
さらにこのゼノボットは表面に繊毛をはやし、自由に泳ぎ始めます。
生きたカエルの胚では繊毛は通常粘液を流動させるために用いられますが、ゼノボットはその機能を遊泳能力へと転用したのです。
さらにゼノボットは独特の螺旋運動を繰り返すことで、まだバラバラの状態にある周りの単細胞たちの「まとめ上げ」を促進し、まとめ上げられた新たな塊もまた、ゼノボットに変化して泳ぎ始めることが判明しました。
このようなゼノボットの動きは新たな子孫を力技でこね上げることから、ある種の自己複製動作であると解釈されています。
神話の創造神が土をこねて人を作ったように、ゼノボットは細胞をこねて塊にすることで、新たなゼノボットを生み出したのです。
ゼノボットは高次の実体が死んでも、その細胞がまだ生きている場合に何が起こるかを調べるための貴重な材料と言えるでしょう
自己複製可能な世界初の生きている機械「ゼノボットMk3」を開発
研究者たちはまた、人間の細胞でも同様の現象を確認しました。
人間の肺から切り取った細胞を培養するとゼノボットのように自己組織化を起こし、冒頭で紹介したように、動き回る小型の多細胞生物になることが発見されたのです。
研究者たちはこの新たな多細胞生物を「アンソロボット」と名付けました。
アンソロボットは100%人間と同じゲノムを持ちながら、脊椎動物ではなく粘菌のような形状をとります。
またアンソロボットは傷つけられたときには、自身の体を修復する自己修復機能も備え、さらに損傷したニューロン細胞をみつけると修復するという奇妙な性質がありました。