しかし近年の研究では、生と死を超えた第3の状態に突入することで、ホモサピエンスのゲノムを持つ生物を、新たな多細胞生物へと変化させることが可能であることがわかってきました。

死のラインの曖昧さが加速している

生命システムにおいて、全体的な機能の喪失、つまり死が起きた後に何が起こるかは依然として多くが謎に包まれています。

生物が死ぬと体内のネットワークが機能しなくなり、時間をかけて徐々に全体の細胞が死んでいきます。

しかし体を構成する細胞の生存能力には差があり、全体としての「死」が起きた後も一部の細胞は長期に渡り生命活動を続けることが可能です。

たとえば人間の一部の脳細胞は、酸素なしで最大4時間以上生存できることが明らかにされています。

一般的な理解では酸素の供給が途絶して5分以上が経過すると蘇生できる可能性が急速に低下し、10分を過ぎるとほぼ絶望的と見なされます。

しかし蘇生が絶望的となり脳波が平たん化した後でも、実際には脳の中には生命活動を続ける脳細胞が少数ながら存在しているのです。

また臓器移植などの場合、ドナーの死亡後に「生きた臓器」が摘出され移植されますが、これも全体としての死と細胞や臓器の死のタイムラグによる結果となっています。

一般に考えられているような「死の瞬間」というものは、細胞レベルでは存在しないのです。

一方近年の研究では、生き残った個々の細胞たちを長期培養することで何が起こるかを調べる試みが、盛んに行われるようになりました。

生物としての死を迎えた体から取り出した生命の「燃えがら」に、どんな奇跡が起きたのでしょうか?

生と死を超え新たな多細胞生物になる

生命の「燃えがら」にどんな可能性が残されているのか?

謎を解明するため研究者たちは、生物を分解して取り出した細胞に対して、栄養、酸素、電気、化学物質の提供を行いました。

すると、取り出された細胞たちに、生でも死でもない第3の状態を引き起こせることがわかってきました。

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ゼノボットは細胞を集めてコネて子孫を作る / Credit:Sam Kriegman et al ., PNAS (2021)