より強硬な姿勢を示したのがアメリカである。6月に下院が、ICC関係者に制裁を科すことを可能にする法案を可決した。この法案は、まだ上院と大統領署名を通過していない。だが可決の可能性はゼロではない。11月の選挙をへて、上院で共和党の勢力が広がり、大統領が交代となれば、可決の可能性はさらに高くなる。
アメリカによる金融制裁が発動された場合、オランダの銀行に預けてある職員の資産のみならず、ICCの資産も使えなくなると懸念されている。給与支払いも全てストップしてしまえば、ICCは活動停止に追い込まれる。
これはオランダを本拠地にする銀行等も、ニューヨークを本拠地にする株式市場等の金融関係の諸制度から排斥されてしまうことを恐れて、アメリカ政府の方針に従わざるを得ないために発生すると想定される事態である。以前のトランプ第一期政権の時代に、ICCがアフガニスタンにおける戦争犯罪の捜査を開始することを決定した際、当時のベンスーダ検察官らに対する制裁が導入されたことがある。それによってベンスーダ検察官がアメリカに入国できなくなっただけではない。資産凍結によって、大きな不利益と活動の制約が引き起こされた。現在、タリバン政権の復権もあり、ICCはアフガニスタンの捜査を行っていない。
当時、赤根氏はまだ任命されたばかりの判事だった。ほとんど最初の仕事が、予審部でアフガニスタン捜査開始の審理を行う作業だった。このとき、赤根氏の予審部は、ICCの資源の限界を指摘して、捜査開始を許可しなかった。この決定は、ICCを強く支持してきた世界のNGOや法律家層から、厳しい批判を浴びた。法の原則を政治的考慮で捻じ曲げている、というわけである。当時のベンスーダ検察官は、再審理を求めた。再構成された新たな予審部は、捜査を許可せざるをえなかった。
今、アフガニスタンの戦争犯罪の捜査はどうなっているか。アメリカの制裁によるダメージと、タリバン政権の復権によるアフガニスタン国内での捜査の不可能に見舞われて、捜査は打ち止めとなっている。