ぼくも隔月で載せていただいている『文藝春秋』の書評欄で、平山周吉さんが、その月でイチ推しの新書を紹介するコラムを持っている。

もうすぐ次の号が出ちゃうのだが、11月号では「大げさに言えば、「国民必携の新書」」として、佐藤卓己先生の『あいまいさに耐える ネガティブ・リテラシーのすすめ』を挙げていた。民主党への政権交代が起きた2009年以降、震災からコロナまで激動だった15年間の時評を集めつつ、専門のメディア史の観点から位置づけた本だ。

で、読書家の人ほど、サブタイトルを見て「ネガティブ・ケイパビリティをもじったんだな。さすが佐藤さんセンスいいな」みたく感じたと思う。なにを隠そう、ぼく自身がそうで、かつ間違っているわけでもない。

ネガティブ・ケイパビリティ(消極的な能力)とは、ものごとを安易に断定せず、不確実かつ多義的で「正解はないかもしれない」状況を、そのままに受けとめようとする姿勢を指す。もとはシェイクスピアを評価する文学上の概念として19世紀に生まれ、日本では精神科医で作家の帚木蓬生氏が書いた同題の著作(2017年)で知られる。