決定論的な世界観では、どんな複雑な事象でもその事象を記述する式が解明されれば必ず未来の状態を予測できるようになる、と考えられていました。

もし本当にそうであれば、世界の様々な問題は今よりもずっと少なくなっていたでしょう。

もちろんそんなに事は上手く行きませんでした。

その後決定論的な見通しを否定するような事象が次々と現れたのです。

カオス現象もその一つでした。

カオス現象とはその名の通り非常に混沌とした現象を指します。

「混沌とした現象」とは、考慮するべき要因があまりに多く、しかもそれらが非常に複雑な振る舞いをするため、数学的に記述することが困難な現象のことです。

例えば1つのボールならその運動を単純な式で記述でき、簡単に解くこともできるため未来の状態を予想できます。

しかし大気や液体は大量の粒子の集団なので、その動きを予測しようとした場合、含まれる粒子それぞれの及ぼす影響を考慮しなければなりません。

これを式にして解こうとすると、一気に難易度が跳ね上がってしまいます。

とはいえ、カオス現象を見せる全ての式そのものが複雑というわけではありません。

中には簡単な式で振る舞いを記述できるものもあります。

しかし、ある程度の時間が経ったあとの振る舞いが極めて複雑になってしまうと、もはや解けない式となってしまい予測不能であると表現されます。

そのわかりやすい一例が、ロジスティック写像です。

ロジスティック写像はイギリスの数理生物学者であるロバート・メイの研究を発端にして、生物の個体数が世代を経て変化していく様子を表す式として世に広まりました。

これは次の二次関数で簡単に表すことができます。

$$y=ax(1-x)$$

これはある世代における個体数を\(x\)、繁殖率\(a\)をとして次の世代の個体数\(y\)を表す式になっています。

まず定数\(a\)と変数\(x\)の値を適当に決めると、この式から\(y\)の値を得ることができます。