それからハチドリのクチバシは非常に細長いので、花粉の付着するスペースが限られています。
そこでヒペネア・マクランサは自ら花粉ブラストを発射させることで、ハチドリの体に花粉を付けているのです。
これは過去の研究で十分に指摘されていたことでしたが、研究チームは今回、花粉ブラストにはまだ別の利点があるのではないかと考えました。
それが「ライバルの花粉を吹き飛ばす」ことです。
もしライバルの花粉を吹き飛ばすことができれば、ハチドリが別種の植物の花粉にまみれていても、自分の花粉を多く付着させることが可能でしょう。
チームはこの仮説を検証すべく、実験を行いました。
実験ではまず、ハチドリの頭蓋骨標本を使い、クチバシにヒペネア・マクランサとは別種の植物の花粉を散布しました。
これらの花粉は蛍光標識によってUV光を当てると、光って目視しやすいようになっています。
そしてチームはハチドリのクチバシをヒペネア・マクランサの花弁に差し込んで刺激を与え、花粉ブラストを起こさせました。
その後、クチバシにUV光を照射して顕微鏡で残っている花粉粒をすべて数えて、実験前と比較。
するとヒペネア・マクランサの花粉ブラストによって元々の花粉粒の多くが吹き飛ばされて少なくなっており、逆にヒペネア・マクランサの花粉粒が多く付着していたのです。
この結果から、ヒペネア・マクランサの花粉ブラストはただ自分の花粉を送粉者に付着させるだけでなく、送粉者にあらかじめ付着していたライバル植物の花粉を吹き飛ばすのにも役立っていることが支持されました。
ステレンボッシュ大学の進化生態学者で、研究主任のブルース・アンダーソン(Bruce Anderson)氏は今回の結果を受けて、「私たちの発見は植物における競争的花粉除去(competitive pollen removal)という考えの初の証拠を提示するものである」と述べています。