ところがここで植物たちが直面する問題があります。
それは蜜を吸いに来た送粉者の体がすでに別種の植物の花粉で覆われてしまっていることです。
送粉者たちは都合よく、自分たちの種だけの蜜を吸ってくれるわけではありません。
そうなると例えば、植物種Aが自らの花粉を送粉者に付けたいのに、彼らの体はすでに植物種Bの花粉にまみれていて、もはや自分の花粉を付着させるスペースがない場合があるのです。
これではただ蜜を吸われるだけなので、植物種Aにとっては損でしかないでしょう。
こうした背景を踏まえて、研究チームは非常に興味深い繁殖戦略を持つ植物に注目しました。
ブラジル固有の赤い花を咲かせる「ヒペネア・マクランサ(Hypenea macrantha)」です。
花粉ブラストでライバルの花粉を吹き飛ばしていた!
ヒペネア・マクランサは赤い花弁が細長いことからも想像できるように、ハチドリが主な送粉者となっています。
ハチドリは空中でホバリングしながら、細長いクチバシを花弁に差し込んで蜜を吸う小鳥です。
そしてヒペネア・マクランサはハチドリのクチバシで突かれて刺激を受けると、花の先端部がゆっくりと開き始め、最終的に中に詰まった花粉をカタパルト方式で勢いよく発射するのです。
こちらが実際の映像。
花粉は秒速2.62メートルのスピードでハチドリに着弾します。
研究者らはこれを「爆発的花粉配置(explosive pollen placement)」と呼んでおり、植物界でも異例の行動として認識しています。
このような一風変わった方法を取る理由は、ハチドリにあると考えられています。
ハチドリは昆虫の送粉者と違って、花の上に直接着陸して蜜を吸うわけではないので、まず体に花粉が付きにくいことが挙げられます。