2. 少子化原因としての単身者主義
なにしろ家庭における「単身者主義」が指摘されたのは55年も前のことであり、提唱者の神島も具体的なデータによって「家庭の問題」を検証したわけでもなかった。
そこで近似的に、総務省統計局『社会生活統計指標-都道府県の指標 2024』の都道府県別データを使用して、独立変数としての「合計特殊出生率(TFR)」に「単身者主義」に関連が深いと判断される変数の何が相関するかを計算した。
すなわち、TFRを説明する「単身者主義」変数として、
人口10万人当たりコンビニ数 単独世帯率(対一般世帯数) 借家率(対居住世帯あり住宅数):居住している世帯以外の者が所有・管理している住宅 消費支出(二人以上の世帯):1世帯当たり1カ月間 婚姻率(人口千人当たり) 第3次産業就業率(対就業者) 女性労働率 1世帯当たり世帯主年収を用意してみた。
データベースは表2で提示する。都道府県別の上記の8指標ごとに、TFRとの相関係数をエクセル統計で計算した。その全体的な結果を表3にまとめた。
表2 TFRを説明する「単身者主義」変数
TFR 単独世帯率 借家率 コンビニ数 消費支出 婚姻率 3次産業就業者率 女性労働率 世帯主年収 北海道 1.2 40.49 41.3 40.6 268.4 4 74.1 45.4 235.7 青森県 1.31 33.14 28.2 30.5 245.1 3.26 67.1 49.9 205.9 岩手県 1.3 33.27 28.6 30.9 272.9 3.24 64.3 50.8 217.6 宮城県 1.15 36.94 38.7 33.3 284.2 3.88 71.4 48.7 271.6 秋田県 1.22 30.55 21.6 29.8 247.8 2.8 66.1 47.9 196.9 山形県 1.32 28.43 23.1 30.3 321.4 3.31 61.4 52.1 219.5 福島県 1.36 33.15 29.7 24.8 292.7 3.64 62 48.7 229.7 茨城県 1.3 32.65 25.9 30.7 275.8 3.7 64 49.1 289.3 栃木県 1.31 32.91 28.4 30.7 281.1 3.83 61.6 49.8 284.2 群馬県 1.35 32.38 26.5 30.6 286.6 3.63 62.5 51.3 258.6 埼玉県 1.22 33.95 31 23 315 3.98 73 48.5 218.7 千葉県 1.21 36.26 31.6 27.3 311.5 3.98 75.7 47.5 331.9 東京都 1.08 50.24 49.1 32.2 322.8 5.26 81.1 45.8 352 神奈川県 1.22 39.21 37.2 26.1 300.2 4.29 76.5 46.8 363.1 新潟県 1.32 30.85 24.3 29.3 313.7 3.44 65 50.8 229.6 富山県 1.42 29.66 21.6 29.3 317.8 3.59 62.3 53 255.5 石川県 1.38 34.67 28.5 28.9 307.1 3.83 67.9 52.7 265.9 福井県 1.57 29.68 22.8 30.1 252.2 3.95 63.7 54.5 254.9 山梨県 1.43 32.6 26.8 33.3 270.8 3.93 64.1 51.6 228.6 長野県 1.44 31.03 26.7 27.8 286 3.76 61.3 52.9 249 岐阜県 1.4 29.36 23.2 26.8 306.1 3.54 63.1 51.7 268 静岡県 1.36 31.88 30.1 29.9 291.8 3.81 62.8 52.1 274.4 愛知県 1.41 36.35 37.7 29.5 263.9 4.69 63.7 50.7 337.9 三重県 1.43 33.01 25.6 25.1 295.8 3.87 62.7 49.9 293 滋賀県 1.46 31.9 25.9 23.1 297 4.16 62.5 50.3 321.3 京都府 1.22 41.2 34.7 24.9 283.2 3.96 72.8 44.9 276.3 大阪府 1.27 41.85 41.2 21.2 250 4.64 73.7 43.9 264.1 兵庫県 1.36 35.95 32.7 21.4 287 4.02 70.6 45.9 297.1 奈良県 1.3 29.27 24.1 17.1 290.8 3.45 73.1 44.1 266.3 和歌山県 1.43 32.51 24.9 21.8 225.7 3.82 67.1 47.2 203.2 鳥取県 1.51 32.25 29 26.7 273.9 3.79 68.3 51.7 216.8 島根県 1.62 33.17 28.4 27 273.9 3.57 68 51.7 223.4 岡山県 1.45 35.63 31.5 25 276.6 4.16 66.6 49.1 275.9 広島県 1.42 37.3 35.7 26.5 284.4 4.2 69 49.3 264.1 山口県 1.49 36.53 30.4 27.6 283.2 3.58 68.3 47 229.2 徳島県 1.44 35.65 27.7 21.5 298.5 3.63 67.1 48.7 203 香川県 1.51 34.43 29 21 274.5 3.98 68 49.1 255.7 愛媛県 1.4 37.47 31.4 24.6 243.5 3.67 67.3 47.1 211.9 高知県 1.45 39.09 31.8 24.9 280.8 3.53 70.2 47.4 189.1 福岡県 1.37 40.67 44.4 27.1 285.5 4.43 74.9 48 254.2 佐賀県 1.56 30.3 31.2 30 274.6 3.74 66.9 53 222.7 長崎県 1.6 34.43 34.2 24.9 250 3.73 72.2 49.1 209.2 熊本県 1.59 33.9 34.5 27.6 291.3 3.91 68.5 50.8 220.7 大分県 1.54 35.95 34 26.9 271.2 3.92 69.3 48.6 223.5 宮崎県 1.64 35.81 32.9 26.5 253.2 3.88 67.8 50.5 209.9 鹿児島県 1.65 38.94 33.8 26.9 299.2 3.86 71.1 50.5 207.7 沖縄県 1.8 37.44 49.5 27 228.3 5.03 78.2 45.6 207.5出典:総務省統計局『社会生活統計指標-都道府県の指標 2024』
(注)合計特殊出生率(TFR)は2020年、「単独世帯率」は2020年、「借家率」は2018年、「人口10万人当たりコンビニ数」は2014年、「消費支出」は2021年、「婚姻率」は2020年、「1世帯当り世帯主年収」(千円)は2020年、「第3次産業就業率」は2020年、「女性労働率」は2020年のデータである。年度が一致した方が望ましいが、公的統計ではそれはなかなか困難である。
TFRを非説明変数と仮定して、いくつかの指標を説明変数とした場合、沖縄県の扱いでは気をつけたい。なぜなら、沖縄県のTFRは日本最高の1.80であり、借家比率が49.5%で日本第1位、婚姻率が5.03で日本第2位、第3次産業就業率が78.2%で日本第2位、そして表にはないが「一人当たり県民所得」が最下位という独特な県民性があるからである。
沖縄県のデータがその他の都道府県とはやや異なる分布を示す傾向があるので、全体の相関係数が左右されて、鮮明な特徴を打ち消すことが予想されるからである。
本研究では、TFRの説明因子を明らかにすることを課題にしているので、沖縄県を入れる場合と外す場合に分けてみた。
これは、上記のデータに見るように、沖縄県のデータは独特な文化に裏打ちされているようなので、47都道府県の全体像を求める際には有効なこともあるが、そうでないこともありえるという判断からである。
くれぐれも気を付けたいが、沖縄の独自性はそのまま受け入れるが、日本全体の普遍性への手がかりを模索するためのデータ計算では、沖縄のデータを入れる方法と外す方法の両者を実行してみたというわけである。
(次回:「単身者本位の粉末社会:少子化の根本原因(下)」につづく)
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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