もっとも先にBRICSに加入する可能性が高くなっているのが、マレーシアだ。アンワル首相が出席していると報道されている。他にはラオスの首相が出席している。BRICS加入に強い関心を持っているとされるタイからは外相が出席している。東南アジアを一つの地域とみなすならば、BRICS加入国が存在していなかった地域だ。新規加入が有力と思われる。

懸案となるのが南米だ。昨年はアルゼンチンの加入が注目されたが、首脳会議直前の大統領選挙で新自由主義を旗印にするミレイ氏が当選して、BRICS加入も立ち消えとなった。その後も、親米的な路線をとっている。

もともと中南米はアメリカのお膝元と言っていい地域であり、いかにBRICSにも関心があると言っても、アメリカの影響力及び働きかけも強い。今回のカザン首脳会談でも、新規加盟を見据えた出席国の中に、南米からの国の姿は少ない。BRICSが標榜する「多元主義」が、中南米においてどのような展開を見せていくのは、一つの注目点である。

第三の注目点は、「脱ドル化」に向けた政策を、どこまで具体的に打ち出してくるか、という実質的措置に関わる点である。これは今後の国際社会の全体動向に関わる大問題であるが、現時点では情報が限られている。少なくとも会議における討議内容が判明してきた後に、あらためて検討していくことにしたい。

ただ「脱ドル化」に関して一つだけ指摘しておくと、日本で広範に「人民元はドルに代わる基軸通貨にはなれない」という主張が流通しているのは、的外れである。BRICSは人民元の基軸通貨化ではなく、現地通貨や新規取引手段を通じた決済方法の「多元化」を目指している。

中国とインドが同盟関係を結ぶはずはない、といった話も目にすることがあるが、BRICSはNATOのような軍事同盟化を目指しているわけでもなく、これも的外れである。インドは人民元の広範な流通を望まないかもしれないが、今回のBRICS首脳会議にあわせて中国との国境紛争を解決する合意も達成した。BRICSの存在価値を、加盟国はそのような点に見出している。BRICSはNATOにはならない、BRICSはEUにはならない、といった的外れな評価は、冷静な分析のために、百害あって一利なしである。