ドイツにおける現在の懸念材料の一つが、セファロスポリンという、広範囲に効果のある重要な抗生物質が、今後も順調に供給され続けるかだそうだ。というのもこの抗生物質は、2016年にフランスが採算が取れずに製造を中止して以来、中国でしか生産されていない。
万が一、生産が減ったり、輸送が止まったりすると、ドイツだけではなく世界中の多くの国で、手術の際の殺菌も、敗血症、肺炎、脳膜炎などといった疾病の治療も困難になるという。それどころかセファロスポリンは、厄介な耐性菌による院内感染の治療にも使われている。そんなわけで、今、ドイツでは、冬を目前に不安を感じた医療関係者が対策を求め、政府に強く繰り返し申し入れを行っている最中だ。
その矢先、製薬会社にとってさらに不幸なニュースが飛び込んできた。EUが、何千もの役にも立たないEU指令(法律に相当)を出し、企業の競争力を低下させ続けていることはすでに有名だが、今度は製薬会社に白羽の矢が立てられたらしい。
というのも、EUでは、大都市の下水処理場に、薬効成分の残留物を濾過するための浄化装置を設置する意向で、その費用の80%を、“犯人”である製薬会社と化粧品メーカーに負担させることが検討されているという。ちなみに推定では、濾過装置の建設費が約100億ユーロで、年間の運営費が10億ユーロだ。
そうでなくてもドイツは、主に電気代の高騰、さらに、あまりにも煩雑な書類主義などで産業立地としての魅力が失われ、現在、多くの優良企業が生産拠点を国外に移転している最中だ。もし、このEU指令が可決されれば、製薬会社も化粧品会社もその後を追って、皆、ドイツを脱出するだろう。
さて、では、この過度な中国依存は、ドイツの近い将来を考えた時、何を意味するか? これは、直近の類似例であるロシアガスのボイコットと置き換えてみればよくわかる。現在、ロシアは困っておらず、エネルギーが高騰・逼迫して壊滅状態となっているのは、ロシアに経済制裁をかけたはずのドイツだ。それも、回り道をして入手している何倍にも高くなったロシアのガスで、細々と命を繋いでいる状態だ。