これらの出来事を見て、われわれはどのような状況の理解をしておくべきだろうか。

第一に、ハマスは軍事組織としての実体を失ってきていたが、カリスマ的存在であったシンワル氏の喪失によって、その傾向は強まるだろう。

第二に、ただしそれがハマス戦闘員の完全投降なるものを導き出すとは考えにくく、原状では同じ混沌が続くという短期的な見通しを持っておかざるをえない。ハマスとの交渉に応じないイスラエル政府の態度は、さらにいっそう強くなった。カリスマ指導者を失ったハマスの指導体制の行方は不透明で、イスラエル軍の撤退なしに人質解放問題に応じるといった大きな判断を予測できる事情はない。なお、ガザにおいて武装しているのは、狭義のハマス戦闘員だけではない。イスラエルの占領統治政策に、長期的安定を見据えた打開策がない事情は、シンワル氏の死亡後も、何ら変わらない。

第三の大きな論点は、シンワル氏が、パレスチナの抵抗の象徴として、強烈な印象を残して死んでいったことの影響の評価だ。

これまで何人もの武装組織の指導者が、アメリカやイスラエルの標的殺害の攻撃によって、死亡してきた。アメリカの「対テロ戦争」の軍事作戦では、逃走後に拘束されて裁判にかけられて死亡したイラクのサダム・フセイン元大統領や、パキスタン領内に潜伏中に特殊部隊の急襲を受けて殺害されたアル・カイダ勢力の首領オサマ・ビン・ラディン氏らが思い出される。

イスラエルも、おびただしい数の外国勢力の指導者を暗殺してきた。ここ数カ月だけでも、ハマスのイスマイル・ハニヤ政治局長、ヒズボラ最高指導者のナスララ師などが暗殺されてきた。ガザにおいては、軍事部門トップのモハメド・デイフ氏の殺害がすでに確認されていた。だが死亡時の状況が必ずしも明らかではないデイフ氏を除き、暗殺された政治指導者たちは、戦闘中に死亡した、という状況ではなかった。

今回、政治局長の座にあったシンワル氏が、最後の抵抗を示しながら、地上での戦闘行為の中で死んでいったことが画像証拠で示されたのは、非常に珍しい。