この方法を用いると、油脂を多く含むミドリムシの変異株を効率的に選び出すことが可能になります。

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左の図:油脂高含有株を選抜するためのプロセス、右の図:好気状態および低酸素状態における各ミドリムシ株の油脂含有割合 / Credit : 岩田修ら, 生物物理学会誌(2017)

具体的には、上の図に示すとおり、まず野生株のミドリムシ細胞に重イオンビームを照射し、様々な変異を持つ細胞集団を作ります。

次に、Bodipyという試薬を使って油脂を蛍光で染色し、油脂を多く含む細胞をセルソーターという装置で選び出します。

この処理を繰り返すことで、ミドリムシ変異体株の油脂含有量を増やしていきます。

この処理(高速選抜技術と呼ぶ)は、好気状態(酸素が十分にある状態)、低酸素状態の各条件下で3回繰り返され、ミドリムシの油脂含有状態の変化が確認されています。

最終的には、各条件下において野生株に比べ油脂含有量が40%増えた変異体が得られ、重イオンビームおよび高速選抜技術を用いた品種改良法が可能であることが示されています。

当然、低酸素状態のケースではワックスエステル発酵回路が活性化したため、油脂成分(ワックスエステル)は好気状態に比べ野生株、変異体株双方で大きく上回っています。

また、今回の研究では、高速誘導ラマン散乱顕微鏡という技術を使って、生きたミドリムシの細胞の中にある特定の化合物を高速かつラベルフリー(染色無し)で観察しています。

これにより、窒素不足や酸素不足のストレス環境でパラミロンや油脂がどのように変化するかを細胞レベルで調べることが可能になります。

これらの技術を使うことで、より多くの油脂を蓄えるミドリムシの細胞や、その成長に最適な環境を探し出せるようになり、品種改良の研究の助けとなることが期待されています。

ミドリムシの生産性ですが、陸上でも水中でも培養が可能で、栄養素や光の条件に合わせて成長するため、比較的環境に依存しない培養ができます。