そのためには、細胞内に油脂成分を多く含むミドリムシの品種を改良することが必要になります。

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ワックスエステル発酵回路:ミドリムシの細胞内にある貯蔵物質であるパラミロン(エネルギー貯蔵物質)が糖分であるグルコースを経て酸化し、ピルビン酸になり、最終的に脂肪酸とアルコールが結合してワックスエステルが作られます。 / Credit : 岩田修ら, 生物物理学会誌(2017)

ミドリムシの品種改良に重イオンビームを使う

ミドリムシは、光合成を通じて栄養を蓄積し、その過程で油脂を生成します。

バイオ燃料の製造に向け、油脂の生成量を増やすためのミドリムシの品種改良では、一般に次の2つの方法が用いられます。

1つ目の、突然変異を用いる方法は、放射線や化学物質を使ってDNAに傷をつけ進化を誘発します。

もし突然変異によって油脂生成能力が高まった株ができれば、それを選んで育てていきます

2つ目の遺伝子操作を用いる方法は、ミドリムシの遺伝子に特定の変化を加えることで、油脂の生成に関わる酵素の働きを強化します。

例えば、脂肪酸の生成を促進する遺伝子を活性化させたり、不要なエネルギー消費を抑えたりすることで、より多くのエネルギーを油脂生成に使えるように改良します。

しかし品種改良を行うにあたり、ミドリムシの持つ植物の特性が弊害となってきます。

ミドリムシは遺伝子セットが多くなる(多倍体)という植物の特性を持つので、遺伝子操作を同時に行うことが難しく、見た目や性質の変化が起こりにくいとされているのです。

このことを踏まえ、研究グループは、重イオンビームという高エネルギーの放射線を利用して、ミドリムシの変異体を作るという「1つ目の方法の強化版」を採用しています。

強力なビームでミドリムシの遺伝子を一気に切り刻んで、見た目の変化がすぐにわかるようにするわけです。

ミドリムシたちにとっては試練の時となりますが、生き延びて選別に耐えれば、バイオ燃料のための家畜化という、自然環境より幾分か恵まれている未来が待っています。