しかし、この論調は、多くの普通の人にとってピンとこない。私達が日々感じているのは、2%なんていうものではない物価上昇、つまりインフレーションだ。
賃上げについても、「名もなき暴落②」に書いたように、それが行われ、来年も行われそうなのは大企業だ。賃上げには、企業収益の増大が必要だが、中小企業の景況感は良くない。多くは原材料高、電気料金などの公共料金の値上げに苦しんでいる。
働いている人々に目を向ければ、食糧品をはじめとする生活用品の値上げは連日のことだし、郵便料金、公共交通機関運賃の値上げ等が連続している。実質賃金のマイナスは続きそうである。
一部で行われている賃上げも労働分配率を上昇させるに至っていない。図2が示しているのは明らかな低下傾向だ。
株が上げれば…デフレ脱却などという偽りの看板は早く降ろした方が良い。日本経済にとっては、“株価が命”と正直に言ったらどうか。
もちろん、構造的には、そして長期的に考えれば、「株価命」は大問題なのだが、ごまかすよりは正直な方が良い。
経済白書今年の経済白書は株高と消費の関係を取り上げている。株価の上昇が目立ったのは2013年以降、つまりアベノミクス下だが、そこで株価による消費の押し上げ効果が高いという。
その背景のひとつは、NISA(少額投資非課税制度)によって若年層が株式市場に参入したためだ(図3)。必要なモノのほとんどを所有しているシニア・引退者と違って、これは若い層の購買力は強い。それだけに、8月5日の暴落は逆資産効果を引き起こす心配もある。
株式市場の構造変化株式市場が巨大な遊休貨幣資本の堆積によって構造変化を起こしていることは、「名もなき暴落②」で述べた。
これに加えて、“名もなき暴落”が生み出したもうひとつの変化がある。それは投機化である。もっとも、投機性は株式市場に内在するものであるから、変化ではなく本質の外在化とした方が良いかもしれない。