経済再生担当大臣に任命された赤沢氏は翌日の10月1日、「金利の引き上げは慎重にして頂きたい」と記者団に語り、「しばらくやってはならない」と、関係者が敢えて曖昧にしてきた時期の注文もつけ加えた。
シナリオは進む。10月2日夜。官邸に“お祝い”にやって来た日銀総裁と新総理が直接会う。会談は短く、中身は“デフレ脱却”などの一般論だったようだが、注目は会談の後のそれぞれの記者会見だ。
「個人的には」(この前置きは重要!)と断ったうえで、「利上げ環境にあるとは思っていない」(新聞各紙における石破総理発言報道、10月3日)。
一方の日銀総裁は「総理から金融政策について具体的にこうして欲しいという話はなかった」と述べた(読売新聞、10月3日)。
慎重さを欠く、という批判が起こるのを承知で敢えてやった。だから「個人的」を発言の前に置いたのだ。
効果総理の最初のギャンブルは効果があった。為替は円安方向に振れ、株価も9月30日の下げ幅の半分を取り戻した。この日、つまり10月3日の夜、株式市場が閉まってから、赤沢氏、財務大臣、日銀総裁が会談している。日銀に念を押したのかもしれない。学者として理論の上での主張はあるだろうが、株価第一!、おさえて、おさえて、といったところだろうか。
これをみて“利上げ容認”で総裁を応援していた日銀幹部も微妙に方向を変える。
「緩和的な金融環境を忍耐強く維持し続けることが重要だ」「相応の時間が必要」(長崎市での野口審議委員の発言。読売新聞、10月4日)。
ついでに言えば、総裁が懸念を表明したアメリカ経済の後退予想も“後退”した。10月4日に発表されたアメリカの雇用は大幅増で、これを受けてニューヨーク市場は史上最高値を更新した。
デフレ?アメリカ経済が不調でないとすれば、利上げをしない、あるいは先延ばしする理由は“デフレ”に戻って来る。赤沢大臣も「デフレ脱却優先」と言い、野口審議委員も「2%の物価安定」を強調した。