DNAは生命の設計図であることには変わりませんが、そこから機能を持ったタンパク質が複雑な形に変形できるまでには、多数のプロセスが必要になるわけです。
ですがこれは、タンパク質の研究を行っている研究者たちにとって「大問題」でした。
DNAに記されているアミノ酸の順番という情報だけをみても、最終的にどんな形のタンパク質ができあがるかが全く予想できなかったのです。
この危機を脱する唯一の手段は、高性能な顕微鏡のような仕組み(X線結晶構造解析やクライオ電子顕微鏡など)を使って、タンパク質の分子構造を1つ1つ解明することです。
しかしこの作業は非常に時間がかかり、1つのタンパク質の分子構造を解明するためには、数か月から数年もかかることがありました。
構造が複雑で解析が困難なものに至っては、十年以上もの年月が要されることもあります。
DNAの配列情報が解き明かせるようになっても、その生産物であるタンパク質の構造がわからなければ、生命現象を正しく理解することも、病気を治すタンパク質ベースの薬も作ることはできません。
DNAに刻まれたアミノ酸の順番の情報から、タンパク質の構造を予測するための様々なプログラムが開発されましたが、正確性に問題があるものばかりでした。
人間が人間のために作った設計図ならば、そこから製造物を予測するのは単純です。
しかしDNAに刻まれた生命の設計図を、人類はなかなか解読することができなかったのです。
ある技術が開発されるまでは……。
たった2年で「2億」種類のタンパク質の構造を解明
2020年、ハサビス氏とジャンパー氏は、タンパク質の構造解析にAI技術を使った「AlphaFold2(アルファ・フォールド2)」を開発しました。