このようなAIによるタンパク質構造解析は、生物学や製薬の分野に革命的な変化をもたらしました。
実際、以来現在に至るまでAlphaFold2を使ってタンパク質構造解析を行った論文は2万件に及んでいます。
ノーベル賞の中には発見から数十年を経て受賞するものもありますが、AlphaFold2は開発から僅かな期間での受賞となりました。
短い期間で受賞したということは、この技術がいかに全てを変えてしまったかを物語っています。
一方で、残る1人であるベイカー氏の業績は、2人の逆をいくという点で革新的でした。
新しいタンパク質をゼロから設計する
AlphaFold2はAI技術を使ってDNAやアミノ酸の配列をコピー・アンド・ペーストするだけで、タンパク質の構造を予測してくれました。
しかしベイカー氏の業績はある意味でその逆でした。
ベイカー氏が作った「ロゼッタ」と呼ばれる仕組みは研究者たちがタンパク質の構造をコンピューターに入力することで、必要となるDNA配列やアミノ酸配列を教えてくれるものでした。
(※初期型のロゼッタはAlphaFold2と同じようにアミノ酸配列からタンパク質構造を予測するために開発されましたが、その後の改良により「逆」が可能になりました。そしてノーベル賞はその改良に対して送られています)
より簡単に言えば、AlphaFold2が設計図からタンパク質の構造を教えてくれる仕組みであるならば、ロゼッタはタンパク質の機能や構造から設計図を逆算して教えてくれる仕組みだと言えるでしょう。
確かに素晴らしい発明ですが、AlphaFold2に比べてロゼッタの使い道を思いつかないひとも多いでしょう。
しかしここでいう「タンパク質の構造」というのは、想像上のものでも構いませんでした。