そもそも公益通報部分と非該当部分を区分可能であると言うのであれば、非該当部分に関して内部犯を特定・懲戒処分のための調査をすることは妨げられないはずです。

まとめ:具体的記述を欠き無関係な内容や誹謗中傷を含む文書が公益通報と扱われなかったことの不利益は文書作成者が引き受けるべき

まとめると、当該告発文書の中で匿名性を維持したまま調査によって事実関係が把握できる可能性が十分にあると言えるのは一部のみであり、仮にこの一部を調査するにしてもコストが現実的ではない可能性があると言えます。

公益通報とそれ以外の内容が混在している文書は区分するなら論理的に非該当部分を根拠に作成者の特定・懲戒処分のための調査は妨げられないことになること、全体として一体的に判断する場合、公益通報に仮託して通報からは無関係乃至はかけ離れた記述があることで公益通報性を否定する判断がされることもあり得るが、その結果責任は文書作成者が引き受けるべき場合があるのではないか。

兵庫県の事案の告発文書は、調査によって実態解明可能な程度の具体的な記述に欠けるため「通報」要件を満たしていないか、全体の記述が公益通報にふさわしくないため、「不正の目的でなく」の要件を満たしておらず、公益通報として扱わなくともよい。

したがって、その後の懲戒処分の結果とプロセスが適切だったか否かは措くとして、当該書面の作成者・頒布者を特定して聴取する行為は必要であり、禁止された探索行為とは言えない(公益通報性があるにしても探索禁止の例外に当たる)。

このような怪文書が公益通報として扱われなければならないとして事業者に義務を負わせられる世の中は、おかしくなると思います。

現在進行している公益通報者保護制度検討会でも、大企業の内部通報窓口には公益通報には該当しない通報が多数なされており、従事者の負担が非常に大きいという、濫用的通報の問題提起がなされているように、日本企業の業務効率を阻害する制度運用が為されないようにしなければなりません。

公益通報者保護制度検討会