イランは4月にもイスラエル領内を攻撃したが、より限定的な措置であった。いわば威嚇射撃であったと言ってよい。10月1日の攻撃は、空軍基地やモサド本部などのイスラエルの重要軍事拠点を標的にした。イスラエルに明白な軍事的損害を与えることを狙っていた点で、4月の段階よりもエスカレートした措置であったと言える。

しかしなお「イスラエルが報復したら再攻撃する(報復がなければ再攻撃しない)」というメッセージをイランが繰り返したのは、攻撃の性格を変えたとしても、なお「エスカレーションを通じたディエスカレーション」を狙った措置であることの説明である。実際に、イランは、10月1日以降、イスラエルへの攻撃を仕掛けていない。

イスラエルの後ろ盾であるアメリカは、イランを強く非難したが、実際にはイスラエルの報復措置の抑制を働きかけ、限定的な軍事行動のオプションを提示していると見られている。戦争の拡大を望んでいないからである。

イスラエルは、イランへの報復をほのめかしてはいるが、実際にはシリア領内のロシア軍基地を攻撃したり、レバノンの首都ベイルートを爆撃したりしている。イスラエルは、イランの行動の過剰化を通じて、アメリカの直接参戦が狙えるのであれば、それを望むだろう。

しかし現実にはアメリカは及び腰である。そうであるならば、イスラエルもイランとの全面対決を避けるしかない。報復をしない、という意思表明は、イスラエル国内政治の事情から不可能なので、イランにとっては実質損害がない範囲内の軍事行動を取って、それを報復と呼んで偽りにならないような方法を模索するしかない。

アメリカでは、イランの攻撃を見たトランプ共和党大統領候補が、イスラエルの苦難はバイデン=ハリス政権の失政によるもので、政権交代がなければ第三次世界大戦が起こる、と述べた。イスラエルは見放さない(見放せない)が、だからこそ戦争の拡大を望まず、むしろ停戦を望む、という意思表明である。