だがこうしたポピュリスト的な扇動的言説にかかわらず、客観的に見れば、中東で戦火が広がって日本の利益になることなどない。一部右翼的親イスラエル派の国会議員の姿勢にかかわらず、日本の国益が、事態の鎮静化=ディエスカレーションにあることは間違いない。

イランは、攻撃が終了するよりも前から、国連に自衛権行使を報告するとともに、イスラエルが報復したら再攻撃を加える、つまりイスラエルが報復しなければ攻撃は継続しない、という意思表明をしていた。継続的な全面戦争をする意図ではない、というメッセージである。

このイランの態度から、英文SNSでのやりとりでは、「エスカレーションを通じたディエスカレーション(De-escalation through Escalation)」という説明も、広く見られた。「エスカレーションを通じて、ディエスカレーションを達成する」、というのは、強い態度を見せて、相手の態度の抑制を図る、ということである。

ある紛争当事者が、過剰な暴力に訴えている場合、しかもそれが暴力の抑止力が自分には働かないと信じているがゆえに発生している事態である場合、他の紛争当事者が強い手段をとり、対抗措置を保持していることを見せることによって、事態の抑制を図る場合がある。紛争管理の基本パターンの一つだと言ってよい。

端的にわかりやすい例をあげれば、我を忘れて暴力を振るっている人物に、「やめろ」と言っても変化が期待できない場合には、威嚇射撃を行って、暴力を止める場合がある。威嚇射撃でもまだ不足である場合には、急所を外した実力行使をするだろう。緊急避難の場合には、むしろ最初から暴力を働いている者の急所を狙う。そうではない行為をするのは、威嚇射撃または急所を狙った発砲という強い手段が、実は暴力を止めるという抑止的効果を発揮するのを期待してのことだ。

つまり「エスカレーションを通じたディエスカレーション」とは、自分を抑止できる者はいないと信じて暴力を働いている者に、あえて脅威に感じるはずである手段を行使する実力を見せることによって、考えを変えさえて、抑止を図るための措置である。