それが何故、ここまで党員票の影響力が大きくなったのか。私が見るところ、ポイントは大別して3つある。

まず、大きいのは派閥解体の影響である。麻生派を除いて派閥が解体となり、候補者が乱立したのが今回の総裁選の大きな特徴の一つだ。9名もの候補者が乱立し、それぞれが最低20名の推薦人を確保したということで、候補者本人たちの9票や、20名ギリギリではなく、少し余裕を持って支持者を獲得していた候補者などの状況などを勘案すると、ざっくり言ってそれだけで、二百〜二百数十票強が固定化され、国会議員の浮動票は当初から100票強くらいしかなかった。

国会議員票の368票の1/3弱である。自ずと、選挙期間中は、議員票よりも、まだ固まり切っていないように見える党員票の368票の方を狙う動きが加速化され、その影響力が大きくなったと考えられる。

ここで注意すべきは、この傾向(派閥の弱体化)は、今回特に顕著だったものの、ずっと底流のように続いてきているということだ。同じ清和会から町村氏と安倍氏の二人が立候補した2012年の自民党総裁選でも明らかなように、派閥の弱体化というのは徐々に進んでいたということである。

今回、旧岸田派から上川氏と林氏が、旧茂木派から茂木氏と加藤氏が立候補して、派閥の実質的解体が話題となったが、この流れ自体は以前からあったと言える。

今後も、以前のような形ではないにせよ、誰を総裁にするかでグループのようなもの、疑似派閥的なものは存続し続けることになると思うが、大きな流れとしての派閥の弱体化は変わらず、総裁選での候補者乱立の傾向は変わらないと考えられ、結果として相対的に党員票の影響は大きくなると思われる。

そして、党員票の影響力が増えた2つ目のポイントは、何の変哲もない答えになるが、普通に党員票の割合が制度として増やしている(制度的に増している)、という厳然たる事実である。

前々から、自民党総裁選においては地方票のシェアというものは一定程度存在し続けていた。ただ、その割合は限定的で、例えば、私が経産省(当時は通産省)に入った際の総理だった橋本龍太郎氏は、当時は泡沫候補的存在だった小泉純一郎氏に勝利するわけだが、国会議員票は二人合計で311票、地方票は80票に過ぎなかった。