記者の質問:年内の追加利上げはあるのか?

8月の記者会見では「段階的に利上げを行う方針を強く打ち出していた」(読売新聞、2024.9.21)のだから当然の質問だ。

答え:「決まったスケジュール感とかペース感があるわけではない」と曖昧にして、むしろ“2025年の春闘の見通し”を気にしていると応じた。次の利上げには「時間的余裕」があるとも。

要するに、年内はやりません、と言った!

10月にも12月にも会合はあるようだが、やらない、そう市場関係者・投資家は受け取った。だから、日中の日経平均の上昇幅は1,000円を超えたのである。

日銀総裁が春闘などに言及するのも、日銀の経済における立ち位置を考えれば異例である。『The NEXT』で示した「金融概念図」でも中央銀行は図の最上部にある(図1)。春闘は図の外にあるので書いていない。

図1 金融概念図

因果関係で言えば、金融政策の動向が、いくつかの経路を通って実物経済に影響を及ぼす。賃金が上がるかどうかは実物経済が示す一現象だ。“賃上げ”には口も出せないし遠いところにあるのが中央銀行である。

賃上げが侵透しデフレを脱却(しつつある)というのが、総裁をはじめ日銀幹部の認識のようだが、春闘の主役とはいえない中小企業の賃上げ率はやっと3.62%、パート職員は3.43%である。それも、ここで賃上げしなければ従業員が離れるという危機感が経営者の背中を押した。

働く人が実際に離れなくても、働く人の心が会社から離れる。そういうことに中小企業の経営者は敏感なのである。定昇は小幅にして年末一時金で“難局”(原料・燃料・電気代等の値上がり)を乗り切ろうとしているケースが多い。だから賃上げを持続的にしろというのは無理がある。

円安と金利差

日米の金利差が為替相場の決定要因のひとつ、これは異論がない。円安のいき過ぎを心配する人々は、その是正のために利上げを支持する。