■ムクダナルズがマクドナルドに聞こえる日本語の限界
「日本には打楽器がないんです。太鼓はあるだろうと言われるでしょうが、西洋の打楽器は小太鼓がわかりやすいけど、響き線というザーッて音を出す線が裏についている。打撃音を生かしているんですよ。日本の楽器は打撃音じゃなくて音の余韻を楽しむ。お寺の鐘はゴーンと鳴らすと後ろにワーンワーンって音がうなる。教会の鐘は金属音でガランガラン鳴ります。まったく違う。この違いは何が原因かというと言語、日本とヨーロッパ言語の違いなんです」
日本語には子音成分がないと傳田さん。
「マクドナルドは、発音通りならムクダナルズのような表記になる。でも日本人はマクドナルドとカタカナに変えて読む。彼らの発音する子音が聴こえていないからです」
日本語は演歌と同じで、こぶしを回す。日本人はこぶしのようにうなる音を快適だと感じ、それは言語に由来する。だからムクダナルズがマクドナルドとしか聞き取れないように、西洋音楽の本来の音が「聴こえない」のだ。傳田さんは長年のトレーニングで、奇跡的に脳の機能が組み代わり、西洋の音が聴こえるようになった。だが普通の日本人に西洋音楽は「聴こえない」。それが傳田さんの結論だった。
傳田さんはそのことを本にまとめるとともに、どうすれば自分のような西洋の音を聞ける耳を作ることができるのか、考え始めた。
「僕が聴いた音を人工的に作れないか。長い間、僕がやってきた音刺激、いろんな音刺激を人工的に作ることができれば、僕が獲得した耳が共有できるはずだと思った」
コンピュータ音楽が一般に普及し始めた頃で、コンピュータで音刺激を作れると考えた傳田さんは、構想が長かったせいもあり、5年かかって目指す音を作り出した。