では、なぜ転勤はこんなにも嫌われているのだろうか?
そもそも転勤の多くは、総合職と一般職というコース別採用のうち「管理職候補である総合職」に対して企業から要請される。
この総合職/一般職という区分は日本独特のものだ。「管理職候補=男性」「補助職=女性」と、性別によって募集・採用を分けていた企業が多かった時代から、1986年の男女雇用機会均等法を経て、性別の区分を取り払ったものとして導入された。
それからすでに37年が経過しており、その間に時代は大きく変化している。
1980年から2022年までの日本の共働き世帯数の年次推移グラフを見てほしい。この42年間で、男性雇用者と無業の妻からなる世帯が半減する一方、雇用者の共働き世帯は倍になっている。
共働き世帯が増えたため、夫婦のどちらかが通勤できない場所へ転勤になった場合、単身赴任するか、片方の配偶者が会社を辞めてついていくかの選択をせまられる。夫婦だけではなく子どもの教育についても考えなければならない。
一度正社員の立場を手放すと、ブランクの後に同じ条件の仕事を見つけるのが難しいので退職の判断はリスクを伴う。単身赴任は家族で過ごす時間を奪い、金銭的な負担もある。転居を伴う転勤は、家族や生活、ひいては人生に与える影響が大きい。
「転居を伴う転勤」が嫌われるもう一つの理由は、年功序列・終身雇用制度が崩れつつあることだ。会社の要請に従って滅私奉公しても、昇進と定年までの雇用が保証されているわけではない。
バブル経済崩壊後の1990年代初頭頃を境に、日本企業はそれまでの日本ではなじみの薄かった早期・希望退職募集を始めた。
東京商工リサーチの調査によると、特にITバブル崩壊の影響が大きかった2002年には主な上場企業のうち200社で早期・希望退職を募集し、総募集人数が約4万人にのぼった。リーマンショック直後の2009年には191社・22,950人、コロナ禍の2020年は93社・18,635人、2021年は84社・15,892人と、経営環境が悪化すると人員削減するようになった。