トラウマや恐怖体験に関連する記憶を完全に忘れさせるのではなく、その記憶に対する恐怖や不安の反応を軽減することが大切なのです。
そしてこの過程を「恐怖記憶の消去」と呼びます。
これを生じさせるには、恐怖を引き起こす刺激を安全な状況で繰り返し体験し、脳がその刺激を「恐怖を感じるべきではない」と再学習しなければいけません。
例えば、恐怖体験をした人が、特定の音に対して強い恐怖を感じる場合、その音を安全な環境で徐々に体験していくことで、彼らの脳は音に対して恐怖を感じなくなります。
この再学習では、記憶や学習に関わる海馬が大きな役割を担っています。
そしてPTSDの原因の1つに、海馬の機能不全が挙げられています。
海馬が正しく機能しないゆえ、いつまで経っても再学習が進まず、恐怖から解放されないというわけです。
過去の研究により、低強度の運動が海馬を活性化させると判明していました。
そして今回の研究では、低強度の運動で、実際に恐怖記憶の消去が促進されることも分かりました。
これらの結果からすると、ラットでは、習慣的な運動が海馬を活性化させて再学習効果を高め、結果として恐怖記憶の消去が促されると考えられます。
さらに今回の研究では、運動による海馬の活性化において、BDNF(脳由来神経栄養因子)と呼ばれる脳内タンパク質の作用の高まりが関係していることも分かりました。
こうした結果は、人間のPTSD治療にも役立つ可能性があります。
習慣的な運動を導入した新たな「治療・予防プログラム」が、人々を辛い症状から解放するかもしれないのです。
PTSD患者はうつ症状を併発していることが多く、彼らは習慣的に運動することを難しく感じているため、比較的継続しやすい軽運動の効果は、彼らの希望となりえます。