研究者たちが2種類の星状細胞を調べたところ、遺伝子の活性パターンはほとんど変わらなかったものの、メチル化パターンが大きく異なり、通常の星状細胞ではロックがかけられている特定の遺伝子が、幹細胞としての機能を持つ星状細胞ではロック解除の状態にあることが判明しました。
逆を言えば、普通の星状細胞は特定の遺伝子にロックをかけることで、幹細胞としての機能を勝手に持たないようにしていたのです。
脳のどこにでもある普通の星状細胞が全て幹細胞になってしまうと、脳のあちこちで新たな脳細胞が生まれ、脳回路に恐ろしい混乱が起こってしまうでしょう。
コンピューターの基盤でたとえるならば、マザーボードの上に無秩序に新規回路が形成されるのと同じことが起こるはずです。
正常な脳機能を守る上で、このロックは重要な役割を果たしているのです。
しかしここで研究者たちは、あえてこのロック機能を外すことにしました。
遺伝子のロック解除(脱メチル化)で幹細胞が生まれる
なぜ幹細胞化を抑えているロック機能を外したのか?
それはロック機能を外すことで「正常でなくなってしまった脳」を救える可能性があったからです。
たとえば脳卒中や事故などで大量の脳細胞を失ってしまった人のロックを解除できれば、新たな脳細胞を獲得し、失われた機能を回復する手助けができるかもしれません。
具体的には、普通の星状細胞におけるメチル化パターン(ロックパターン)を幹細胞のそれに変更しました。
先に述べたようにメチル化は特定の遺伝子をロックし、細胞が特定の機能を持たないようにする過程ですが、ここではロックを解除(脱メチル化)することで、細胞が幹細胞として再プログラムされました。
(※変更にはCRISPR-Cas9ベースの技術が使われました)