生きとし生けるものの老化は常に一方通行であり、大人から赤ちゃんに戻ることはありえません。

しかし以前の研究で、刺胞動物(しほうどうぶつ)の「ベニクラゲ」だけは大人から赤ちゃんの状態に戻り、再び生を繰り返すことが知られていました。

それゆえ、ベニクラゲは通称”不老不死のクラゲ(Immortal Jellyfish)”と呼ばれています。

そんな中、ノルウェー・ベルゲン大学(University of Bergen)は最近、「ベニクラゲと同じ能力を持つ生物を新たに発見した可能性がある」と報告しました。

その生物はクラゲに似た有櫛動物(ゆうしつどうぶつ)というグループに属する「ムネミオプシス・レイディ」です。

彼らは一体どのような”若返りの秘術”を行うのでしょうか?

研究の詳細は2024年8月10日付で生物学のプレプリントリポジトリ『BioRxiv』に公開されています。

 

目次

  • ベニクラゲの「若返りの秘術」とは?
  • 不老不死の能力を持つ新生物「ムネミオプシス・レイディ」

ベニクラゲの「若返りの秘術」とは?

ベニクラゲ
ベニクラゲ / Credit: ja.wikipedia

ムネミオプシス・レイディの前に、まずはベニクラゲの若返りを見てみましょう。

ベニクラゲ(学名:Turritopsis dohrnii)は世界中の温帯〜熱帯の海に生息する体長1センチにも満たない小さなクラゲです。

ベニクラゲの一生は他の多くの生物と同じように、両親の交配により作られた受精卵から始まります。

受精卵から生まれたベニクラゲは最初、海中をふわふわと漂う「プラヌラ」という幼生段階に入ります。

その後、海底の岩場や貝殻に付着して固着段階になったのが「ポリプ」です。

ポリプは次第に植物のように枝分かれした状態になり、一つ一つの芽から「幼クラゲ」が海中に離脱していきます。

そして数週間の成長ののちに「メデューサ」と呼ばれる大人のベニクラゲとなるのです。

ベニクラゲの通常の生活環(緑)と若返りのルート(青)
ベニクラゲの通常の生活環(緑)と若返りのルート(青) / Credit: Maria Pascual-Torner et al., PNAS(2022)