ロシアに対する経済制裁の目玉は、SWIFT決済体制からロシアを追い出す、という金融制裁であった。だが、ドルを通じた決済ができなくなったロシアは、欧米諸国の期待通りには苦しまず、別の決済方法による迂回策を広げ続けてきた。

アメリカのほうは、現在、対ロシアだけでなく、38もの世界中の「標的」に対して、金融制裁プログラムを無期限で運用している。基軸通貨と言われるドルの運用管理を担っている超大国だけに可能となる政策だ。しかし、金融取引は信用決済である。一方的な金融制裁を乱発し続ければ、どこかで飽和点が来るはずである。

ただドル決済体制が今後については、経済の専門家の間でも意見が分かれる。信用取引の話であるので、どうしても予測は難しい。

もっとも、人民元がドルに完全に取って代わることはない、暗号資産は基軸通貨になりえない、BRICS共通決済体制が世界中に広がるはずはない、といった意見は、いささか的外れである。BRICS諸国は、「多元的」な国際秩序を標榜しており、ドル決済体制への挑戦は、ドルに完全に取って代わる何ものかの登場と、同じではない。

ドルの地位の命運は、分断が深刻化している現代国際社会において、最も深刻で甚大な構造的な変化をもたらす可能性のあるアジェンダである。そして、少なくともロシアは、10月のBRICS首脳会議を、一つの大きな山場と見ている。時間軸を意識しながら、ロシア・ウクライナ戦争を見る場合、こうした国際政治の構造的な動きも意識しておく必要がある。