第一に、ロシアは、数日単位でのウクライナ軍の駆逐を目指していない、ということだ。州都クルスクと、クルスク原子力発電所に向かうウクライナ軍の北進は止めた、という理解にもとづく方針だろう。ロシアにとって、分散したウクライナ軍の制圧は、もう少し時間をかけて行う目標となった。
ウクライナ軍も、北進できなかった時点で撤退を決断することなく、国境線にそって東西にほぼ無人と思われる集落や山林部などへと拡張する判断をした。クルスク攻勢は、単なる電撃的な奇襲攻撃ではなく、一つの新しい戦線を作り出した、ということである。
ロシアは、東部地域から主力部隊を移すことなく、クルスクでの戦線に対応する方針のようである。実際に、東部戦線で、引き続き戦局を有利に進めている。その前提で、クルスクに展開するウクライナ軍に対抗する兵力を整備する、ということである。ここまで来ると、ウクライナ軍も安全にウクライナ領に撤退することは容易ではない。
「二週間以上にわたってウクライナ軍はロシア領に展開できた」という言説は、ウクライナ軍が北進を断念して、東西の国境地域に分散展開した時点で、あまり意味がなくなった。今後の推移を数カ月単位で見守っていかなければならない。
第二に、それにもかかわらず、プーチン大統領は、あと1カ月余りでのクルスク州に展開するウクライナ軍の駆逐を目標とした。しかしウクライナ側は、クルスク攻勢に大きな意味を見出している。5週間程度のうちのウクライナ軍の駆逐は、ロシア軍関係者にとっては、必ずしも長い期間の設定ではないだろう。
もっともプーチン大統領が、10月1日という目標を公にしているわけではなく、これを伝えた報道の信憑性や細部の事情は不明である。軍事的には、冬になる前に、といった考えもあるかもしれないが、11月になったら全てが止まる、というわけでもない。一つの時間的目標の目安である。
第三に、時間的目標の背景には、したがって、政治的配慮があると想定することが可能である。ウクライナ側は、アメリカの大統領選挙を強く意識している。ロシア側もそうだし、なんといってもウクライナがアメリカの武器支援に大きく依存していることを知っている。