ただ伝統的な生物学では老化は徐々に進むと考えられていたため、急激な老化や厄年との関連性はネガティブな思い込みと考えられがちでした。

安定した状況にある化学物質の反応速度が一定のように、環境が大きく変わらない限り生物の老化も一定に進むと思われていたからです。

しかしここ十数年ほどで生体分子の測定技術が急速に進んだ結果、少しずつ状況がかわってきました。

たとえば個人の血液成分に含まれる生体分子の比率を調べると、特に病気がない人でも、特定の年齢を境に大きな変動を起こしていることが明らかになったからです。

これが事実なら、伝統的生物学のスタンスよりも、生物学的年齢の概念を取り入れ進化した厄年の概念のほうが、より実情に近くなってきます。

ただ既存の分析では、調査対象となった生体分子の種類が少なく、包括性に欠けていました。

血中にある数種類の生体分子がある年齢で大きく比率が変化していたとしても、それと老化現象をイコールで結びつけるのは、科学的にみても乱暴と言えます。

そこで今回、スタンフォード大学の研究者たちは、108人の健康な成人を対象に、RNAやタンパク質をはじめとした各種の生体分子、さらに腸内細菌叢の変化など、合計で13万5239種類の生物学的因子が、年齢に応じてどう変化するかを調べることにしました。

さらに得られた測定値から2460億個を超えるデータポイントが生成され、生体分子の増減に他との連携パターンがあるかどうかが分析されました。

(a)参加した被験者の情報と(b)調査対象になった血液および腸内細菌の分類(※測定した生物学的因子よりもデータポイントが多い理由:ある1種類の生体分子について毎月1回、12カ月に渡って測定したとすると、得られるデータポイントは12個になります。また複数の因子の組み合わせによる分析も新たなデータポイントを生みます)
(a)参加した被験者の情報と(b)調査対象になった血液および腸内細菌の分類(※測定した生物学的因子よりもデータポイントが多い理由:ある1種類の生体分子について毎月1回、12カ月に渡って測定したとすると、得られるデータポイントは12個になります。また複数の因子の組み合わせによる分析も新たなデータポイントを生みます) / Credit:Xiaotao Shen et al . Nonlinear dynamics of multi-omics profiles during human aging . Nature Aging (2024)