留意点を列挙しておこう。第一に、NAMを思想的源流とするインド主導のグローバル・サウスの流れには、ロシアはもちろん、中国も入っていない。共産国である(あった)中国は、NAMのオブザーバーの地位は持っているが、正式参加国ではない。サミットについて言えば、インド政府は、中国は招待していない、と明言している。
日本では、グローバル・サウスを勝手に非欧米諸国の連合体のように理解してしまいがちなので、中国やロシアとの関係で、グローバル・サウスを理解しようとしがちだ。だが少なくともインドが主導するグローバル・サウスの理解は、それではない。
グローバル・サウスの盟主の地位を争って中国とインドが主導権争いをするのではないか、といった話もよく見るが、意味不明である。グローバル・サウスに実体はない。それは組織体ではない。オンライン開催で会議を開いて意見共有を図る場だけを設定している「グローバル・サウスの声サミット」にしても、新しい国際組織の準備のようなものでは全くなく、インド政府にそのようなものを作る意図がある素振りも全くない。
個別的な地域や国に対して、中国とインドが影響力の競争関係を持つことは当然ある。バングラデシュ、スリランカ、モルディブなど南アジア諸国が典型例だが、より広範に、世界的規模での影響力の競争は始まっていると考えてよい。だがそれは「グローバル・サウスの盟主」といった架空の疑似組織体の長のような地位を想像して描写する状況とは、全く異なる。グローバル・サウスは、いわば思想的な結びつきであり、実体を持っていない。
第二に、インド主導の「グローバル・サウスの声サミット」のイニシアチブを、G7とBRICSが対峙する構図に当てはめて理解しようとする傾向も、間違いだ。インドがやっているのは、BRICS強化の試みではない。
「グローバル・サウスの声サミット」参加国リストをよく見てみるべきだ。もともとのBRICSの5カ国から参加しているのは、主催国のインドだけだ。ロシアや中国だけではない。ブラジルや南アフリカも、参加していない。