ところが、市民金の施行が始まって1年後の24年の1月、ハイル労働相はその市民金の額をさらに12%も値上げした。これには、流石のドイツ人も怒った。
ドイツは税金、および社会保障関係費が高く、OECDの調べでは、現在、ドイツよりも負担の多い国はベルギー1国しかない。中でも一番過酷な税負担を被っているのが、毎日、真面目に働き、ドイツ経済を支えている、いわば中間層の人たちだ。
現行のドイツの税制では、中間層の人たちは、たとえ収入が上がっても、累進課税の弊害でほとんど増収につながらないどころか、時には財布に残る額が減るという現象さえ起こる。だから、彼らの目には、何もしない人たちに12%の“賃上げ”を与えたハイル氏の行動は、あたかも勤労者をバカにしているように見えたのは無理もなかった。
一方、市民金の値上げは、低賃金層の人々にとっても、労働意欲を削ぐのに実に効果的だった。連邦統計庁の資料によれば、現在、市民金を受領している人の72%は、労働が可能な人だという。こうなると、市民金は労働市場にとって間違いなく有害である。
さらに納税者を憤慨させたのは、ウクライナからの避難民が市民金を受けているという事実だ。ウクライナ人はその他の国からの難民とは違って、難民申請をする必要はなく、ドイツに入国すれば自動的に、暫定的な準市民権を貰える。つまり、市民金を受ける権利がある。
その結果、現在、ドイツに避難している120万人のウクライナ人のうち、働いているのは4人に1人。後の3人は働かずに市民金を受領し、その家賃も公金から支払われている。ちなみに、他の国に避難したウクライナ人の就業率は、ドイツとは比較にならないほど大きいという。戦争勃発後、ウクライナを後にした400万人の避難民のうち、120万人がドイツにいる理由は、誰にでもわかるだろう。
しかも現在、その120万人のウクライナ人のうちの20万人が、労働可能どころか、戦闘可能な男子だという。ただ、現政権はそれを問題視する気も、修正する気も全くなく、ウクライナへの全面支援、武器供与を今も熱心に説き続けている。ウクライナに武器を供与し、ウクライナ兵の脱走に目を瞑っているというのは、あ まりにも矛盾している。