これは、決して実質GDP成長率が急上昇したからではありません。実質GDPは相変わらず低成長なのに、実質賃金の低下でGDPに占める勤労者の取り分が減って企業の取り分が増えたから、企業最高益をはやして株価が上がってきたわけです。

そして勤労者の取り分が減ったのは、毎年2%以上のインフレ率を維持して、実質賃金をマイナス成長にとどめるとともに、円安・低金利によって本来勤労者の賃金上昇に回るはずの労働生産性の上昇分がほとんど、資本の利益にかすめ取られてきたからなのです。

言い換えれば過去3~4年の株高は、インフレと円安で賃金を抑制することによって達成されたものなのです。株価上昇を謳歌してきた方々は、勤労所得にほぼ全面依存した日本国民の7~8割を貧しくすることで達成された株高だとご存じの上で、喜んでいらっしゃるのでしょうか。

つまり「企業利益がこんなに順調に伸びているのに賃金が上がらないのはおかしい」のではなく、企業利益が低成長のGDP増加分をほとんど一人占めしているからこそ、少しづつでも労働生産性は上がっているのに、実質賃金が下がりつづけているのです。

円安・インフレ率上昇が本来大部分が勤労所得になるはずだったわずかばかりのGDP上昇分をほとんど全部企業利益にしてしまったという論点の前に、日銀利上げがどうして世界経済を震撼させる大事件なのか説明させていただきます。

円キャリーとは何か?

国際金融に興味をお持ちの方でしたら「円キャリーの巻き戻しで円高が進む」といった表現をどこかで見聞きされているはずです。

円キャリー取引とはいったい何かをできるかぎり単純化して描いた模式図と、対外純資産トップ10ヵ国、ボトム10ヵ国の対外純資産持ち高を示すグラフの組み合わせをご覧ください。

キャリーとは何かというと、どこかの国の金融資産(株、債券など)を買って値上がり益や配当を取ろうとするとき、直接その国の通貨を買わずにまず金利が低くて値下がりしそうな別の国の通貨を借りて、借りた通貨で目標とする国の金融資産を買うことです。